カピバラがネズミであることを忘れているであろう猫たち

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冷静に考えると、やはり動物の世界においてはフィジカルこそがすべてなのだ。なぜそう思ったのかというと、鬼天竺鼠(カピバラ)と猫が互いに干渉せず、そこそこ仲良く暮らしている光景を目の当たりにしたからだ。

 

念のため触れておくと、天竺鼠とはモルモットを意味し、齧歯類における最大種が鬼天竺鼠ことカピバラなのだ。つまり「カピバラは巨大なネズミ」ということになる。

ネズミといえば猫に狩られる運命にあるわけで、天敵である猫と仲良くじゃれ合うなど、ネズミにとってはとてもじゃないが信じられないだろう。

それでも実際に、猫に毛づくろいをしてもらい、ピタッとくっ付いて昼寝をする彼ら彼女らの姿を見ていると、奇妙だが納得せざるをえないのだ。

 

「やはり、デカいのは何かと得なのだ」

 

 

わたしは今日、吉祥寺にあるカピねこカフェを訪れた。

都内近郊でカピバラと触れ合える場所はあるが、いずれもカピバラは展示されている状態のため、そこで一緒にくつろぐことはできない。人間どもが我先にカピバラを撫でたり、課金してエサを与えたりしつつ、必死に画像や動画を撮影して終わりである。

ところがここは「カフェ」と謳っているだけあり、猫やカピバラと戯れるもよし、彼らを眺めながらゆっくりと過ごすもよしと、穏やかな時間を共有することができるのだ。

 

わたしの狙いは、カピバラのきくらげちゃん一択。猫も10匹ほどいるが、そちらに興味はない。あくまで鬼天竺鼠のためだけに、吉祥寺まで足を運んだのである。

入店前に注意事項が書かれたボードを渡されたので、よく読んでみたところ、

「カピバラに猫じゃらしをくわえさせないでください」

という一文に目が留まった。・・・ネズミであるカピバラに猫じゃらし。

 

もしも猫じゃらしなどにカピバラが反応したら、それこそ事件である。食べ物以外には動じないのが、カピバラの取り柄であり特徴。それなのに、猫のおもちゃに翻弄されるようなことがあったら、それこそネズミ失格である。

カピバラには人間に媚びることなく、あくまでマイペースを貫いてもらいたいのだ。名前を呼んでも反応などしなくていい、ただ無表情にその辺で寝転がったり草をはむはむしたりしていればいいのだ。

 

注意事項を読み終えると猫じゃらしを一本受け取り、さっそく室内へと入っていった。

 

(いるいる、きくらげちゃーん!!)

 

お昼寝タイムのきくらげちゃん(メス・2歳)の、お尻のすぐそばにある段差に腰をおろした。

ここはカフェなので、人間が座る椅子やベンチが用意されているが、猫ならばまだしも、カピバラがそこまでノコノコとやって来るとは思えない。つまり、カピバラ様に触れたければ、いや、カピバラ様の目に留まりたければ、彼女の近くへ人間が移動するしかないのだ。

そこでわたしは、きくらげちゃんの飲み水&トイレ兼お風呂が設置されている部屋への段差に腰かけると、そっときくらげちゃんの背中に触れた。

 

これといって驚く様子もなければ嫌がる素振りも見せない。無論、気持ちいい表情でもないので、この塩対応は通常営業だろう。

まだ2歳ということで毛艶もよく、たわしのような毛の奥にある地肌もみずみずしい。不謹慎だが、美しいハムのようなしっとり感がある。

 

展示あるいは飼育されているカピバラは、名前がつけられていても呼んで反応することは少ない。まれにしっかりと音を聞き分けて、呼ばれたら寄って来る個体もいるが、かなり珍しいといえる。

そんなきくらげちゃんが、呼んでもいないのに突如立ち上がると、のっしのっしとわたしのほうへ向かってきたのだ!

(どうしたきくらげちゃん?!ついに仲間だと認識されたか!)

喜びもつかの間、スタッフのお姉さんが皿に入った白菜を運んできたことに気付く。これはカピねこカフェのサービスの一つで、来店者全員に一皿ずつ、白菜の欠片が配られるのだ。するとそれを食しにきくらげちゃんが、人間どもの前までご足労下さるシステムとなっている。

 

わたしと友人以外は全員外国人だったため、口々に英語で感嘆の言葉を吐きながら目を細める来店客たち。どうやらここへ来る客の9割は外国人なのだそう。

そういえば先月、ニューヨークでもカピバラは大人気だった。少なくとも日本よりはカピバラの認知度が高いし、関心を持つ人は多いのだと強く感じたことを思い出す。

だからこそ、日本へやってきた旅行客たちは、こぞってカピねこカフェを訪れるのだ。そしてカピバラとともに至福の一時間を過ごし、幸せな思い出を胸に帰国するのだ。

 

やはり、他人がカピバラを見て喜ぶ姿は気持ちがいい。もっと知ってもらいたいし、愛してもらいたい――。

そんな思いに耽りながら、ふとある事実に気が付いた。

(・・あれ?カピバラってネズミの仲間だよな。でもここだと、猫よりも上のポジションになってるじゃん)

トムとジェリーに象徴されるように、ネズミは猫に追い回される運命。実際に、飼い猫がネズミを捕まえて持ち帰るという事例をよく耳にする。

 

ところがどうだ。体重30キロの巨大ネズミ相手では、猫たちも歯が立たない。それどころか、カピバラを舐めたり寄り添って昼寝をしたりと、まるで仲良し親子のような関係性が生まれているのだ。

 

とはいえ、どんなにデカくてもカピバラは草食動物で、猫は肉食動物である。よって、カピバラが猫を捕食することはない。

猫だけが虎視眈々と、巨大ネズミの首根っこに噛みつく瞬間を狙っているのかもしれない。

 

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