行儀が悪いとかマナー違反だとか、そういった常識的な意見は置いておいて、国際線のエコノミークラスにおける快適な姿勢を発見したので、共有しておこう。
そもそも、機内の照明が暗くなれば他人を気にしなくなる。搭乗者の大半は寝ているし、起きている人間のほとんどは映画を観ているわけで、他人の動向に気を揉む暇人などいないのだ。
今回、42列目という最後尾に座らされたわたしは、たしかに後ろからの妨害やプレッシャーはなかったが、よりによって前の客がシートをガッツリ倒してきたため、なんとも肩身の狭い空間で半日を過ごすこととなった。
パソコンを開こうにも、シートが邪魔で画面が閉じ気味になる。しかもわたしの背後はトイレのため、勢いよく流れる水の音と振動で常に賑やかな状態が保たれていた。
貧乏人というのはいつだって我慢が必要である。もしもわたしに潤沢な資金があれば、こんな拷問状態からさっさと脱出できるのだから。
しかし、ない物ねだりをしたとて現実は変わらない。ならば今ある環境のベストを探そう――。
こうしてたどり着いた一つ目のポジションは、名付けて「肘掛け横座り」だ。
このポジションを発見するきっかけとなったのは、隣人のトイレだった。通路側に座るわたしは、隣人がトイレに行くたびに席を立ち、通路へ退避しなければならない。
ところが満席の機内は人で溢れており、トイレ待ちの列がわたしの横まで伸びていると、そもそも通路へ出ることすら困難となる。しかし、わたしが座っていたのでは隣人は通れない。ならばこうするしかない――。
ということで、わたしは通路側の肘掛けに腰かけた。
隣人は驚きの表情を見せたが、それでも状況を把握するとニコっと笑ってトイレの列に並んだ。
彼が戻るまでの間、わたしは肘掛けに座ったまま周囲を見渡すことにした。すると、薄暗い機内での搭乗者の様子が、面白いほど観察できるではないか。
髪の毛の色から頭髪の薄さまで、妙にカラフルな景色が広がっている。寝ている奴も起きている奴も、まさかわたしが最高列から頭頂部を眺めているなど、思いもしないだろう。
さらに各席のモニターを見ると、洋画を観ていたり機外の様子を流していたりと、それぞれ自由な時間を過ごしている。
そのうち隣人が戻り、着席すると間もなく眠りについた。それを見届けたわたしは、肘掛けに座ったままパソコンを開いて仕事に取り掛かった。
長時間同じ姿勢で座っていると、どうしたって尻が痛くなる。だがこうして肘掛けに腰かけていると、尻の位置をずらすことで圧力の集中から逃れることができるのだ。さらに眺めもいいので、むしろ得した気分になる。
――つまりこの座り方は、最後列でなければできない専売特許なのである。
続いてのポジションは、「肘掛けアルマジロ」だ。そう、結局のところ、狭いシートで使えるアイテムといったら肘掛けしかないのだ。
これは、座席で横向きに体育座りをして、アルマジロのように丸まる方法。多少太っていても、両肘掛けの間に背中と足をねじ込んでしまえが完成するので簡単である。さらに、背もたれに寄りかかるように側頭部をつければ、そのままスヤスヤ眠ってしまうほど安定したポジションでもある。
極めつけは、隣人が肘掛けの上に手を載せていようがいまいが、こちらには全く影響がないという点だろう。
そして意外にも、アルマジロになることで足の浮腫みをおさえられるとあり、まさに一石二鳥のアイデア。
上級者になると、体育座りが高じてカメのようにうずくまってみたり、ヨガのポーズのように手足を複雑に絡ませてみたりと、狭い座席でも左右の肘掛けがあるおかげで、隣りにはみ出ることなく自由な姿勢を作ることができるのだ。
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エコノミークラスの最後列にて、この2つのポジショニングを編み出したわたしは、想像以上に快適なエコノミーライフを謳歌した。
とはいえ、アップグレードできるのならば速攻で移動するのは言うまでもないが。
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