もちろん、摂り過ぎはよくない・・というだけの話ではあるが、砂糖や小麦といった「悪魔の白い粉」の過剰摂取が、健康被害を招く要因となるのは周知の事実。
だがわたしは、もうすでにそれらの悪魔に身も心も取り憑かれているため、除霊の意味を込めて「砂糖を断つ」ことを決めたのだ。まぁ、今日からではあるが——。
何事もそうだが、極端にやりすぎるのはよくない。ダイエットや試合前の減量が分かりやすい例だが、過度な制限を加えると、体重は落ちたとしても内臓やメンタルへの負担が大きいため、体調不良を引き起こしたりリバウンドしたりするのがお決まりのコース。
とくにダイエットなど、短期間で”体重という名の数字”を作り出すためのものではなく、長い目でみてスリムなボディを維持するための行為なので、過度な食事制限などしていたら長続きしない。
そういったことからも、「砂糖を断つ」とはいうものの、お菓子やケーキに手を出さない・・という意味であり、果物に含まれる果糖は別物として扱うことにしたのである。
今の季節、いちごからすいかへと「赤のシフトチェンジ」が目立っているが、じつはその陰で「キウイフルーツ」の台頭が目まぐるしいことを忘れてはならない。とくに注目すべきは“レッドキウイ“である。
見た目は普通のキウイ・・いわゆるグリーンキウイと遜色ないが、中身が真っ赤で甘みが強いのが特徴。そしていちご亡き今、赤色つながりですいかとレッドキウイのツートップが、わたしの果物愛を満たしてくれるナイト(騎士)として活躍しているのだ。
そんなわけで、夜10時前に近所のスーパーへ駆け込んだわたしは、とある一つの目標を掲げていた。それは「絶対にスイーツ系に手を出さない」という、ある種難易度の高いミッションだった。
そうは言うものの、果物はOKなのだからそこまでナーバスになる必要もない。ケーキやドーナツ、チョコレートのエリアを素通りできさえすれば、ミッションクリアなのだから。
というわけで、入店するやいなや一目散に値引きシールが貼られたカットスイカへと駆け寄った。たとえ20%引きとはいえ、5パック買えば一個無料ということになる。当然ながら、これは見逃せない。
そして、山積みにされたキウイを10個ほどかごへと放り込むと、ついでに青りんごもいくつか見繕った。よし、ここまでは順調だ——。
ほかにも適当な食べ物がないか物色していたところ、あやうくホールのアップルパイに手を出しそうになったが、本日のミッションを思い出してグッと堪えることに成功した。1,600円もするアップルパイは、さすがに買えない・・いや、そもそもスイーツやケーキはご法度なのだ!!
それにしても、ケーキや菓子は恐ろしい魔力を持っている。ちょっと目の前を通過するだけなのに、何もせずともニンゲンの足を止める力があり、そんな強者と目でも合わせようものなら、それこそ魔力によって商品をかごへ入れさせられるに違いない。
とにかく、“たった一つのミッション“をクリアするべく、わたしは理性を総動員させ平常心を保ちつつレジへと向かった。よしよし、今日のミッションはクリアだ——。
どんな美味そうな菓子を見たところで、鋼の意志は揺らがない。抹茶マドレーヌもクリスピードーナツも、鼻で笑ってしまうほど陳腐な塊にしか見えないのだから、わたしの強メンタルも捨てたもんじゃない。
そしていよいよ、レジまであと2メートルの距離へ近づいたときのことだった。なんと、先ほど見事にスルーしたはずのホールアップルパイが、40%引きのシールを貼られた状態でセール品として置かれているではないか!!!
(1,600円の40%引き、つまり千円を切るということか。こんな千載一遇のチャンス、みすみす見逃すことなどできまい・・・)
*
こうしてわたしは、ゴールまであと2メートルという距離までたどり着いたにもかかわらず、ミッションを失敗に終らせてしまった。
それにしてもなぜ、たった一つの目標が達成できなかったのだろうか。なぜこんなにも、砂糖との決別は困難を極めるのだろうか。これすらも、砂糖が持つ魔力だというのか——。
「白い悪魔を祓う」と決めた初日にして、もうすでに失敗しているわたし。こんな体たらくで、「明日こそは、悪魔祓いを成功させる!」と断言できるのか。仮にできたとして、それが何日続くのだろうか。
——その答えは、自分にすら分からないほど深い闇に包まれているのであった。
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