マットレスカバーの奇跡

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今さらだが、冬のこの時期は「コンクリート冷蔵庫」となる我が家において、なんと、暖かく快適に過ごす方法を見つけてしまったのだ。

この家に引っ越して6年目に入るが、なぜ今まで気が付かなかったのか不思議でしかたがないくらい、単純で簡単なことだった。

 

そのおかげで、今現在エアコンの電源を切っているのに「まったく平気!」という奇跡を手に入れたのだ。

 

 

クローゼットの中身をガサゴソしていたところ、おととしまで使用していたマットレスカバーを発見した。それは、ニトリで購入したモコモコのマットレスカバーで、ワンシーズンしか使っていないためしまっておいたのだ。

柔らかくて滑らかな手触りは、まるで高級なクマのぬいぐるみのよう。次の冬が来たら、またこのカバーを掛けよう――。そう思いながらも、カバーを交換するのが面倒でここまで持ち越してしまったのだ。

 

(モコモコしてる分かさばるし、使わないなら捨てるか・・)

 

今さらこのカバーに付け替えるのが面倒なわたしは、断腸の思いでゴミ袋に詰めることにした。

しかしどうせ捨てるのならば、「存分に使い倒してから捨てよう」と考えた。たとえばソファで昼寝をする際に、これを体に巻き付けて寝たら気持ちいいんじゃないか?

 

我ながら妙案である。マットレスカバーの表面はモコモコしているが、全体的にみると薄い生地でできている。

ちなみに毛布を体に巻きつけると、簀巻きのようになって苦しいしすぐに暑くなる。個人的には、毛布というやつは敷くほうがいいと思っているくらいだ。

 

そこでわたしは、体全体ではなく下半身にマットレスカバーを巻いてみた。まだ昼寝をする気分ではないので、とりあえずは脚に巻くことで様子を見ようと思ったのだ。

その姿は、まるでモンゴルかチベットの人を彷彿とさせる。遠目に見ればロングスカートを纏っている感じで、さほどおかしくはない。

しかしこれは本来マットレスカバーであり、放っておくとずり落ちてくる。そこで、最後に腰痛ベルトを巻いて固定したら完成である。

 

こうしてわたしは、段ボールの椅子に腰かけて仕事を始めた。

 

30分後、足元のファンヒーターの出力を半分にした。なぜなら、下半身が暑くて汗ばんできたからだ。

そのうち、ファンヒーターのスイッチを切ってもいいくらいに体全体が暑くなってきた。――電気代のこともあるし、マットレスカバーを剥ぐよりもファンヒーターを止めよう。

 

気付くとわたしは、足元の暖房なしで快適に過ごしていたのである。

ちなみに、当然ながら上半身も着こんでいる。上から順にフリース、ニット、フーディー、ロンティー、Tシャツ、ヒートテックと完璧な防寒対策をとっているわけだ。フードを目深にかぶり、さすがに鼻の頭は冷たいがその他の部分はポカポカしている。

そして下半身はヒートテック、スウェットパンツ、毛糸の靴下、マットレスカバーをグルグル巻きにしており、マットレスカバーだけでも衣服3枚分の厚みがある。

 

(まさか、これを脚に巻き付けただけで、ここまで違うのか?!)

 

信じられないことだが、事実、足元のヒーターはシーンと静まり返っている。あれほど毎日、朝から晩までフル稼働で足元を温めてきたヒーターが、今ではお役御免となっているのだ。

これまでも、ズボンだけでなく靴下までをも重ね履きするなど、とにかく入念な防寒対策を実行してきたつもりだった。だが、まさかここまでグルグル巻きにしなければ効果がないとは、想像の上を行く発見である。

 

さらにわたしは、エアコンの電源を切った。どうせこんなもの、つけていようがいまいが室温に変化はないのだから、電気代節約のためにも切っておくべきなのだ。

しばらくしてパソコンを閉じると、休憩のためにソファへと移動した。座面の高さも低くなり、先ほどよりも空間が広がる分、どうしても寒さを感じる。

そこでデスクからファンヒーターを運んでくると、24度の弱風でスイッチを入れた。

 

(・・あぁ温かい、これで十分だ!)

 

と、あることに気付いたわたしは腰痛バンドをほどき、足の周りから一周分だけマットレスカバーを剥ぐと、ゴム部分を引っ張って肩に引っ掛けてみた。

肩の出っ張りに引っ掛かったマットレスカバーは、なんと、わたしの背中まで温めてくれるではないか。

――こりゃ最高だ!

 

ズボンの下にヒートテックを履こうがズボンを二枚重ねて履こうが、なぜか温まらなかったわたしの体が、今、マットレスカバーのおかげでエアコンなしでも快適な温かさを感じている。

ちょっと残念なのは、鼻の頭が冷たいままなこと。いや、正確には直に空気に触れている部分は冷たいが、わたしの体と心はポカポカしているのだ。

それにしても、こんな偶然による奇跡があるだろうか。

 

(このマットレスカバー、またしばらく捨てられないな・・)

 

Illustrated by 希鳳

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