とあるジムを訪れたときのこと。見渡す限り、オトコオトコオトコ、オトコ祭りが開催されていた。
いや、冗談だ。わたし以外は全員オトコという贅沢な状況だったのだ。
そもそも冷静に考えてみれば、公の場で中年女性が若い男子と戯れることのできる環境など、そうあるものではない。社内であれ街中であれ、服装もフィジカルディスタンスも節度ある距離を保たなければならず、若い肉体に触れたくとも叶わないわけで。
しかしスポーツジム、とくに柔術やキックボクシング、MMAといったコンタクト競技のジムであれば、合法的にその夢が叶う。
無論、若いオトコのカラダに触れる目的で入会するのはアウトだが、仮にその目的であったとしても、練習を続けるうちに必然的に意識が変わっていくだろうから、若いオトコ目当てのオバハンがいたら是非ともモニタリングさせてほしい。
そしてこちらも初老を迎えたとはいえ、性別はメスである。できることならば、腹はブヨブヨ額はテカテカ、力まかせのマウントおじさんなんかより、スマートで爽やかなイマドキ男子と戯れたい!と思うのは当然のこと。
なかには身なりも清潔で、歯みがきや爪切り、かかとの角質まできれいにケアしているオッサンもいる。そういうジェントルマンには申し訳ないが、どうせなら「冥途の土産」としていい夢を見させてもらいたい、というのが中年女性の切なる願いなのである(URABE調べ)。
それにしても、若い男子というのは何をしても許される傾向にある。たとえば、ちょっと力任せに押し切ってしまったとしても、
「若いから、パワーが有り余っているのよね!」
とフォローされるし、ちょっと手を抜いてあげれば、
「わぁ、優しい!これはモテるわね!」
と、オバハンらの目がハートになるのだから。
それに比べて、オジサンは不幸である。ちょっとでも力を使おうものなら「なんて強引な!」「手加減もできないなんて、サイテー!」などなど、罵詈雑言の嵐となる。
実際には、若者とさほど変わらぬ行動をとっているにもかかわらず、オジサンというだけで可哀想な目にあう運命なのだ。
また、年をとるとどうしても体が硬くなる。今は若くても、あとン十年もすれば誰もが経験するであろう身体的な変化ゆえに、決して責めることはできない。
しかし、オンナというのは身勝手な生き物ゆえに「動きが固いし雑!」「お地蔵さんじゃないんだから、じっとせずに動いてよ!」などと、言いたい放題に罵倒しまくるわけだ。
まったく、女性陣も勝手なことばかり言っていると、そのうち「オッサンの乱」でも起こされて槍玉に挙げられる可能性もあるわけで、気をつけなければならない。
…なんてことを思いながら、練習後にシャワーを借りた。
「女性会員のために、シャワールームをつくったんですよ。少しでもいい環境にしてあげたくて。そこから5年、女性会員は一人も現れませんでした(笑)」
今では男女兼用で使われているシャワールームだが、ここまで女性への配慮があるのはありがたいことである。
そこでわたしが女性代表として、鼻歌まじりでシャワーを満喫していたところ、ふと目に留まるものがあった。それは、メンズ用のボディーソープとメンズ用の泥パックだった。
それらを見た瞬間、なんだか切ない気分に襲われた。
言うまでもなく、これらのボディケア製品は男性陣が自らのために置いているものであり、女性に対するアピールといった下衆なものではない。
だが、いつ女性が入会してもいいように、ジム内の清掃だけでなく自らの身体の清潔までをも保持しつつ、加えて泥パックでスキンケアまで怠らないという「見えない努力」を、5年以上も続けてきたのかと思うと胸が熱くなる。
――かといって、オバハン相手じゃ泥パックは使わなくなるかもしれないな。
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いつの世も、オトコの努力はオンナには伝わらないものなのである。
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