この七年間、わたしは筋肉質で屈強なオトコどもに囲まれてチヤホヤされてきた。なんせ、ブラジリアン柔術は男性の競技者が多い上に、ガタイのいいわたしは練習時のパートナーがオトコとなる場合も多々あるわけで、そんなわたしだからこそ、きっとモテモテで楽しい柔術ライフが待っていると信じていた・・いや、勘違いしていたのだ。
ところが、柔術を始めて七年が経つが、誰一人としてわたしになびくオトコは現れなかった。巷でよく聞く「酔った勢いで」とか「気の迷いで」など、本気でなくともちょっとした過ちくらい犯してもいいだろう。それなのに、これほどまでにオトコで溢れているにもかかわらず、見事に一匹も過ちを犯さないのだから、これは逆に大したものである。
言うまでもなく、中年のババァ相手に年下のイケメンがなびくとは思ってもいない。だが、中には物好きもいるだろうしわたしより年上もたくさんいるわけで、よりによってわたしを見落としているとは思えないのだ。その証拠に、ジムの男性らに"わたしがモテない理由"を聞いてみる、誰もが首を傾げて「なんででしょうねぇ・・」と、触らぬ神に祟りなし的な答えを返すわけで。
挙句の果てには、許容範囲内の独身男性らに詰め寄ったところ、全員が「どうぞどうぞ」と押し付け合う始末——おいこらテメェら!わたしでコントをするんじゃない!!
そして昨日、後輩である男子と後味の悪い映画を視聴していたとき、主人公が(役柄的に)美女ではないにもかかわらず、なぜかモテている事実に納得がいかないわたしは、
「なぁ・・こいつより私はブスか?」
と尋ねてみた。すると「いえ・・そんなことはないですが、なぜかこの人はモテていますね」と、満点の答えを返してきた。まぁ、この作品はフィクションかもしれないが、それでも現実的に"なぜそんなにモテるのか理解に苦しむブス"は存在するし、それどころかある一定数は確実に需要があるから謎なのだ。
モテるオンナの基準は、いったい何なんだ——。
そんなこんなで、もはや間違ってもモテ期は来ないであろうわたしは、"二次元のキュンキュン系"でセロトニンを量産するしかない・・と判断し、ネットフリックスでオススメのキュンキュン系アニメを見始めた。
アニメが素晴らしいのは、視覚的には無機質な二次元アニメーションだが、聴覚的には生身の人間による"迫真の演技"で構成されていることだろう。これがもしも声優を使わずにAI音声でアテレコされていたら、ここまで多くのファンを得ることも、世界的に人気を博すこともなかったはず。やはり人間は、人間の演技に魅了される生き物なのだ。
そしてわたしには、超お気に入りの声優がいる。きっかけは、とあるアニメのキャラクターの声に惹かれたことで、彼が声を当てている他のアニメも見るようになったことだが、今となってはその声優自体がわたしの好みとなっている。
痩せ型でひょろっとした薄い塩顔に、目が隠れるくらいの長さの前髪が特徴。加えて"クズであること"が必須という、これまた珍しい条件がわたしの好みなのである。
「べつにクズじゃなくてもいいんじゃないの?」
わたしの好みを知った友人らは口を揃えてそう言うが、この「クズであること」がとても大事な要素なのだ。なぜなら、クズという表現は得てして"異性関係にだらしないオトコ"に用いられる。無論、金遣いが荒いオトコや働かないオトコもクズではあるが、いずれにせよ"認めたくはないが、見た目がイイ男"であることが、クズと呼ばれるための必要最低条件なのだ。
そして、クズは往々にしてオンナに困らない——そう、クズは不本意ながらも母性本能をくすぐるため、オンナどもが放ってはおかないのだ。だからこそ、泣きを見る女性が多数現れた結果、クズが責め立てられるのである。
とはいえ、実のところ口で言うほど恋愛体質ではないわたしは、二番目でも三番目でも構わないからクズと付き合いたい・・と思っている。
他にオンナがいようが隠れて何をしようが、目くじら立てて怒ることも束縛することもないから、安心してこのわたしの胸に飛び込んでおいで!——と、七年ものあいだ門戸を開放し続けてきたわけだが、その願いは叶うことなく黒帯へと到達してしまったわけだ。
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(おぉ、いいねぇこの青い感じ・・・)
恋愛ドラマでキュンキュンしたい"枯れたオンナ"ども、ちょうどいい秋アニメでが連発されている今こそ、わたしことセロトニン請負人が、貴女らのホルモンバランスを整えてやろうじゃあないか!
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