「あなたは何県の所属?」
「東京です」
「へ、へぇ、そうなんですか…」
昨年末以来、久しぶりに訪れた射撃場での会話。私が何県の何者なのかを尋ねたその男性は、私と同じ東京都所属のシューターだった。
かつて私はほぼ毎日射撃の練習に励み、東京都主催の射撃大会も日本クレー射撃協会主催の大会も皆勤賞。つまり「東京都のURABE」を知らない人などいなかった。もちろん、成績とは別の知名度で。
それが今では「年イチシューター」に成り下がったわけで、そりゃ私が何県の誰かなど知らない時代になって当然だ。
そういえば射撃場の受付にも新人が加わっていた。新人は私に向かって、
「初めてのご利用ですか?」
とにこやかに尋ねる。すると奥から古株のスタッフが、
「あらURABEさん、お久しぶり!」
と助け船を出してくれた。ーーあぁ、まだ私の存在を知ってる人がいたんだ。
そんなお久しぶりの私だが、なんと久々過ぎて銃の組み立て方を忘れていた。散弾銃は通常、3つのパーツに分けて保管する。簡単にいうと、銃の真ん中から切り離した「前」と「後ろ」の2つ。さらに「前の下」も分割できるので合わせて3つとなる。
それらを組み立てて一つの銃にするのだが、色々と忘れてしまった部分があることに、冗談じゃなく私自身が一番驚いた。
(忘却力がウリとはいえ、これじゃあ素人同然じゃないかーー)
たしかにこんなアタフタした姿を見れば、「コイツは射撃をはじめたばかりの素人だな」と思われても仕方がない。というか、実質的に素人同然ゆえ、それはそれで悪くはない。
*
射撃場には老若男女さまざまなシューターが訪れる。競技として日本代表を狙う者もいれば、狩猟の練習として撃ちに来る者もいる。
そしてクレー射撃は構え方や撃ち方を見れば、その人の上手さが一目瞭然で分かる。
某コンテストの審査員が言っていたが、
「(ステージの)裾からステージへ現れた瞬間に、およその順位は付けられる」
という言葉にも頷ける。審査員はウォーキングやポージングを見て審査をするが、それ以前に「デキる選手」にはある種のオーラを感じるのだろう。実際にはオーラではなく、姿勢や表情の美しさがその時点ですでに見て取れる、ということなのだと思うが。
これと似たようなもので、銃の扱い方や銃を構える姿を見れば、ほぼ間違いなく射撃の上手さが分かる。上手い下手というと語弊があるが、ビギナーかベテランかが分かる、という感じ。
具体的にどんなしぐさで分かるのか、と聞かれると表現が難しいが、言うなれば、
「この人はどんなクレーでも割るだろうな」
という雰囲気を纏(まと)う人で、射撃が下手な人をみたことがない。逆に、ギクシャクしていたりワチャワチャしていたりすると、残念ながらクレーに絡まないことが多い。
そういう意味では、いま目の前にいる全日本選手権最多優勝者の射撃は美しい。体格はタルのようで不恰好だが、射撃のフォームの美しさは天性のものだろう。
勝ち負けは時の運もあるため、フォームが美しいからといって常に勝てるわけではない。だがアベレージでみると、フォームが美しい人は常に上位に君臨する。
結局、美しいというのは無駄がないということなのだ。
とその時、ある女子から言われた「褒め言葉」を思い出した。
「その中腰、ドッシリしていて美しいね」
中腰というか、お下品な言葉で言うとウンコ座りの尻を持ち上げたような姿勢のことだ。あの姿勢を取らせたら私に敵うものはいない、というくらい絶大な安定感を誇る。
(って、このポジションを美しくキープできたとして、私にどんなメリットがあるんだ?)
無駄のない美しいウンコ座りーー。きっと役に立つ日がくると信じて、今日も私はドッシリとしゃがむ。
サムネイル by 希鳳
コメントを残す