人によって快不快の基準は異なるもの。そして、自分にとってさほど気にならないことでも、他人にとって不快極まりない行為については、もれなく覚えておかなければならない。
なぜなら、たったそれだけのことでこちらの評価がダダ下がりするからだ。
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温厚で物静かな友人が、目を疑うほどに恐ろしい形相で怒りを込めた声でこう呟いた。
「電車のドア付近に立ってる奴いるじゃん?あいつらって、バカなの?」
正直、「え?そこまで腹を立てるほどのことか?」とわたしは思った。電車のドア付近に立ってる奴とえば、普段のわたしがまさにそれである。まぁ確かにバカかもしれないが、そこまで憎悪に満ちた表情で罵られるほど、悪いことなのだろうか。
「乗り降りする時に邪魔じゃん?マジで腹立つんだよね」
どうやら、出入り口を無駄に占領されることで、乗り降りに支障が出ることを嫌っている様子。いわれてみれば、満員電車でコレをされたら大迷惑である。とはいえ、わたしはそういう輩に体当たりをして、無言でホームへ押し出しているから特に気になったこともないのだが。
・・なになに?それではトラブルになるだろう?フン、甘いな。なんせわたしはオンナである。か弱く可憐なオンナであることを武器にして、あたかも「後ろのオッサンに押されて、ドミノ倒しのようにあなたに当たってしまったの。悪気はないしわたしも被害者なのよ・・」という顔で、むしろちょっと困ったような、それでいて泣きそうな表情を浮かべつつ、全力タックルをかますのである。
ちなみに体当たりで絡まれたことはないが、仮に絡まれたとしても、その際の対処についてイメトレ済みのため、問題はない。
話が逸れたが、日頃から出入口付近に立っているわたしは、まるで自分のことを咎められたかのようにびっくりしたわけで、改めて「なにが彼をそこまで激怒させるのか」を考えてみた。
たとえばエレベーターで同じことをした場合、たしかに出入口付近に立たれることは乗降客にとって迷惑である。行き先階を押してくれるのは助かるが、どうせならドア付近の人間から乗り降りしてもらえると快適だし効率的である。
そういえば、狭い通路の先にあるトイレへ行こうとしたところ、入り口付近でトランクを持って立ってるオンナがいた。そこを通るには体を壁に沿わせて通過しなければならず、本当に邪魔だと思った。——もしかすると、あんな感じなのか?
友人の言い分としては、「電車に乗ったら座席に座るか、奥まで入って手すりにつかまるべき」とのこと。たしかに車両のデザイン(設定)もそうなっているわけで、出入口付近にたむろする必要はない。
「次の駅で降りる」など乗車時間が短い場合は別だが、ずっと突っ立っていれば停車のたびに乗り降りの邪魔をしていることとなり、極めて不快なのだそう。
だがわたしは、そんなことよりももっと不快な乗客がいる。それはデカいリュックを背負ったまま乗り込んでくるバカだ。
かくいうわたしも、車内が空いているときはリュックを背負ったまま乗るのだが、ある程度の乗客がいる車内では、自発的に前面に回して抱きかかえている。
しかも、肥満体に限ってリュックを背負ったままスマホをいじっているからたちが悪い。オマエは腹回りだけでも迷惑をかけているのに、なぜあえて外付けの迷惑品を背中にくっつけているのか、と問い正したい気分である。
とくに、満員電車でアレをされると殺意が湧く。そいつのせいで一人分のスペースが無駄に潰されているわけで、そんなことすら気がつかないということは、そのオトコは絶対的に非モテである。
さらに車内を見渡すと、若者のほうがリュックを胸の前で抱えている率が高い。オッサンや老人のほうが、他人への迷惑を顧みずに堂々と背負っているのだから、若者からウザがられて当然だ。
このように、わたし個人的にはドア付近に立つ客よりも、リュックを背負ったまま乗っている客のほうが、バカであり神経を疑う存在である。とはいえ、これはわたしがドア付近に立つ人間だからそう感じているのかもしれない。
というわけで、これからはなるべく薄っぺらくなって、存在感を消して乗車することにしよう。
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