いったい誰が「チートデイ」などという都合のいい日を作ったのだろうか。さらに、いくらチートデイなるものが存在するからといって、努力の結晶である38日間をバッサリ斬るかのような暴食を、なぜ敢行してしまったのだろうか。それよりなにより、わたしの胃袋は本当に底なし沼なのではなかろうか——。
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とある友人のホームパーティーに招かれたわたしは、ケータリングに訪れたシェフへ予めダイエット中であることを告げ、己の覚悟を貫くべく断固たる意思を示した。これは、自分一人では挫けるであろう暴飲暴食の欲求をコントロールするため、周りを巻き込むことで強制的に阻止する・・というわたしなりの防衛策だった。
ダイエットは一日にしてならず。過去の偉人の名言(?)だが、日々の体重変動に一喜一憂していてばダイエットは成立しない。とくに、運動を省いて緩やかな食事制限のみで体重を減らそうとしているわたしにとって、毎日の食事管理がどれほど困難でどれほど重要なのかなど、言葉にするまでもないわけで——。
だが、陸に打ち上げられた瀕死状態の魚が、偶然にも水を得たことで生き返るかのように、シェフが作る料理はあまりに美味すぎた。それに加えて、子どもたちが作るたこ焼きが、追い打ちをかけるようにわたしの食欲に火をつけたのだ。
しかしながら、スタートは間違っていなかった。まずは少量の緑茶を胃袋へ流し込み、これから登場するであろう絶品料理の数々を迎え撃つべく精神を統一。そして、手始めに「キャロットラぺ」と「キノコのソテー」に箸を伸ばしつつ、「タコキムチ」と「山芋のキムチ」・・すなわち低脂質の野菜や魚介類にてウォームアップを済ませた。
その後、「マッシュポテト」に手を付けたのだが、思い返せばどうやらこの辺りから調子が狂い始めた模様。久々に口にするマッシュポテト・・しかも、シェフ特製のまろやかな生クリームときめ細かな舌触りが、ポテトの風味を極限まで引き出している逸品を味わってしまえば、それは脳もおかしくなるに決まっている。
続けて「ブロッコリーのパスタ」へ差し掛かったあたりから、アイドリングが完了したかのように食欲全開となった。やはり、炭水化物というのは恐るべき推進力を持っている。そして、ヒトはそれに抗うことはできないのである。
極めつけは、その直後に登場した「チキンとポテトのハーブロースト」という名の爆弾だった。オーブンでじっくり焼き上げた鶏肉とジャガイモに、ローズマリーとニンニクのスライスがまぶしてあるシンプルな料理だが、その調理加減たるや絶品の域を超えている——。
暴飲暴食に火が付いたわたしは、ローストチキンとポテトを一瞬にしてやっつけると、背後から聞こえてくる「そろそろタコ焼きが出来上がるよー」という声に釣られて席を立った。
そこでは、子どもたちがたこ焼き器・・いや、オシャレかつ高級感あふれるBRUNO(ブルーノ)のホットプレートにて、たこ焼きを作ってくれていた。本日一回目のターンということもあり、試作段階のたこ焼きは中が生焼けの個体も。だが、これこそが”ブースト”となってしまったのだ——そう、吾輩は生焼けや半生状態の生地が大好物なのだ!!!
殊にホットケーキミックスなど、焼く前のトロトロをスプーンですくって食べ尽くして・・いや、舐め尽くしてしまうほど、焼く前の生地に目がないわたし。そんな”生地狂”に与えられた生焼けのたこ焼きは、結果として眠っていた獅子を呼び起こしてしまったのである。
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正直なところ、その後の記憶はない。むしろ、深層に鎮めていた食欲が爆発したことで、理性を失った脳は暴走状態となったのだろう。気付いた時には、焼きリンゴにかけるクレーム・アングレーズ(フランス菓子に添えられる、さらっとした濃厚なカスタードソース)が入ったボウルを抱きかかえて、まるで食糧を奪われまいと死守する野生動物のように、ペロペロと舐めているではないか——。
そして、こんな暴走状態であるにもかかわらずレコーディングダイエット中であることを主張するわたしは、アプリを開くと今まで食べてきた数々の料理を登録し始めた。それはそれは気が重い作業ではあるが、嘘をついたりごまかしたりすることだけは避けたい。真摯に現実と向き合うことこそが、ダイエットの基本であり原理原則だからである。
こうして、お呼ばれしたホームパーティーにてわたしが摂取したであろうカロリーは・・・・なんと、まさかの3,200キロカロリーを記録していた。ちなみにこれは、少なく見積もっての数字である。厳密にはもう少し大きな数字となるだろうが、これ以上のダメージは精神的によくないため、この辺りで手を打たせてもらったのだ。
今日までの38日間、わたしは毎日1,300キロカロリーという貧相な食事で飢えをしのいできた。しかも、そんな食生活にも慣れてきた矢先に、あのような豪華かつ絶品に分類される料理を並べられたら、どれほど鋼の意志を持ち合わせた強者であっても、ハニートラップに落ちるのは容易いわけで。
あとは、「やはり」というかなんというか、わたしの胃袋は底なし沼のように食べ物を受け入れられる・・ということを再認識した。どれほど食を細めても、我が胃袋が縮むことはないのだ。
さて、目の前にある体重計に乗る勇気は——まだない。




















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