膝下の悪夢

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冬は基本的に24時間エアコンをつけっぱなしにしている我が家。何度でもしつこく言わせてもらうが、我が家がコンクリートとガラスでできたクソ寒いマンションだからだ。

そんな我が家に異変が生じたのは昨日のこと。久々の帰省から戻ると、深夜にもかかわらず東京は暖かく感じた。それもそのはず、冬季オリンピックが開催されるほどの雪と冷気に恵まれた長野と比べれば、東京など楽園といっても過言ではないからだ。

「氷点下がデフォルト」の土地から戻れば、いくら温度計の数値が低くても寒いとは思わないもの。こうして意気揚々と自宅のドアを開けたのであった。

 

ここで誰もが期待する「まさかのエアコンつけっぱなし事件」など、起きるはずもない。ケチで有名なわたしは念入りにエアコンが切れていることを確認してから家を出ているため、天井が落ちてきて偶然エアコンのリモコンを押さない限り、電源が入ることはない。

こうしてシーンと静まり返った部屋に入ると、いの一番にエアコンのスイッチを押す。それと同時に除湿器を上向きにフルスロットルで稼働させる。こうしないと、部屋全体が温まるのは「春以降」ということになってしまうからだ。

 

帰宅時刻は深夜0時を回っていたため、取り急ぎの事務作業を済ませるとさっさと布団にもぐりこんだ。

そういえば今もなお感じるのが、羽布団は暖かくて快適であることこの上なしということ。睡眠の質にこだわるわたしはマットレスも上等なので、本当に幸せな睡眠時間というものを手に入れることができた。これに関しては友人の口車に乗ってよかったと、いつまでも感謝することだろう。

 

翌朝、所用のため早朝に自宅を発った。その後に用事を済ませて帰宅すると、次の予定まで2時間ほど余裕があることに気づく。そこで仕事でもしようかとパソコンを開くが、部屋の中が寒すぎて仕事どころではない。

(上着も脱がずに外と同じ服装だというのに、この寒さって一体・・)

エアコンを確認するもしっかりと30度を示している。布団にもぐりこみたい気持ちをグッとこらえて、全身をガタガタ震わせながらキーボードをたたき続ける。

(ダメだ、寒すぎる・・)

限界が近づいている。どうしたら室内がこんなにも寒くなるんだ。むしろ外よりも寒いんじゃないか?つい先日と比べて、エアコンの威力が落ちているとでもいうのか?

 

わたしは緊急避難的にニトリの毛布を引っ張り出した。羽布団がやってきてからお払い箱となっていたニトリだが、ここへきて再びその価値が認められようとしている。

――なぜベッドに行かないのか?それは羽布団が特別な存在だからだ。あれにもぐりこんでいいのは、神聖なる部屋着を着用したときのみ。いかなる事情があろうとも、それ以外の服装で羽布団に触れることは許されないのだ。

そんな独自ルールに則って、わたしはニトリの毛布を頭までかぶる。――全然暖かくない。しかし、よくもまぁこんな雑な繊維で何度も冬を越したもんだ。過去の自分を褒めてやりたい。

 

そんなこんなで気づくと夕方になっていた。さすがにマズイ。朝寝から昼寝、そして夕寝にまで突入しているじゃないか。今日から仕事という企業が多いなか、わたしは自宅で暖を取りつつ予定を一つキャンセルし、居眠りだけで一日を終わらせることになる。

ところが、それだけ寝たにもかかわらず鼻の頭は冷たいままだ。フードをきっちりかぶった頭もまったく暑くない。当然、手足は冷たいままニトリの毛布の下でガタガタ震えている。

(熱でもあるのかな)

体温計を取ろうと久しぶりにソファから立ち上がった瞬間、わたしはものすごい事実を知ってしまった。なんと、首から上が暖かいじゃないか!!

 

両手をあらゆる高さに上げ下げすると、およそ胸より上は暖かい。頭上など南国のように暖かい。それなのに、腹よりしたはひんやりしている。膝下など息が白くなりそうな寒さだ。つまり膝下の高さにあるソファの上は、外界と同じくらいの冷気が漂っていたのだ。

(よかった、体調が悪いわけでもエアコンが壊れたわけでもないんだ)

一瞬ホッとするが、そういうレベルの話ではない。思うにここ数日間はエアコンを付けていなかったわけで、真冬の寒さが部屋にしみこんだのではないか。その証拠に、室内でむき出しになっているコンクリートがキンキンに冷えている。

昨晩からエアコンを全快にしたくらいで、巨大なコンクリート樽が暖まるはずもないのだ。

 

寒さに震え精神的にも疲弊していたわたしは、一瞬にして元気になった。血沸き肉躍るとでもいおうか、ドゥオンドゥオンという音が聞こえるくらい、体中を熱い血が駆け巡る。

――人間とは単純な生き物だ。原因さえわかれば、あっという間に元気になるのだから!

 

実家から送られてきたリンゴの段ボールを引きちぎり、太ももや膝下に巻き付けるとガムテープでしっかりと留めた。そして目を見開き今日の遅れを取り戻すべく、猛スピードで仕事にとりかかったのだった。

 

サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)

 

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