一個ストックキョーヒー

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ニュースでもコラムでも同じだが、やはり一瞬のアイキャッチがカギとなる。釣りだなんだと叩かれても、そもそも興味があれば自ら情報を取りに行くもの。

どのみち暇つぶしで物色していたところ、キャッチーなフレーズを目にしたため動きを止めた程度の関心ならば、「釣ったもん勝ち」という発想に偏るのも致し方ないだろう。

 

なぜなら、その先に見てもらいたいもの、味わってもらいたいものがあるわけで、入り口すらくぐってもらえなければ、勝負にならないのだから。

 

 

わたしは毎日くだらない記事を配信している。大した中身もなく、わたし自身に知名度があるわけでもないわけで、より多くの人にこのくだらなさを伝えるためには、とりあえず「釣る」しかない。

そこでわたしは、たまたまインスタで見つけたシュールでインパクトのあるイラストを描く、希鳳さんに接触を試みた。

 

イラストレーターかと思いきや、本業は美容師。大阪で77nancy(ナナナナナンシー)という美容室を経営している。もちろん我々は見ず知らずの赤の他人同士だが、突然の奇妙な依頼を二つ返事で快諾してくれた男気は、どこか共通する狂気すらも感じた。

 

希鳳さんの描く絵からは、なんとも深みのあるメッセージが放たれている。かつ、エロがエロくならない不思議なフィルターがかかっているため、お年寄りからキッズまで家族で安心して眺めることができる。

さらに時事ネタの風刺画なども、なぜか嫌味に感じさせないユーモアが前面に出ており、世界平和に一役買っている。

そんな彼のイラストをサムネに使用することで、サムネに惹かれてつい記事を読んでしまう暇人がたくさんいるはず。むしろ書かれている内容よりもサムネの印象で質が担保されるため、大した内容ではないのにやや面白く感じる効果を生んでいる。

 

このように、日々お世話になっている希鳳さんへ直接お礼を伝えたかったわたしは、前触れなしに突如彼の美容室を訪れた。すると、なんと定休日だった。

「大阪は月曜日が定休日なんですよ、東京は火曜日みたいですが笑」

結局、一年半もサムネでイラストを使わせてもらっているにもかかわらず、ご本人と対面できるのはまだまだ先になりそうだ。

 

 

そしてもう一つ、記事の「釣り」として重要な役割を果たすものがある。そう、タイトルだ。基本的にはわたしがタイトルも考えるが、たとえば今日のタイトル、これは友人である木公里予(松野)がつけたもの。

 

毎晩、なぜか夜中にならないと書き上げられないブログ記事。たとえ昼過ぎあたりから考え始めても、指が動くのは23時を過ぎてからという特殊性ゆえ、わたし自身も困っているのだがどうしようもない。

そして記事の下書きが終わった時点で、それっぽいタイトルを思いついたときはまだいい。推敲した後にサムネと合わせてタイトルを配置し、しっくりくれば即投稿、という理想的な流れに乗せられるからだ。

 

しかし問題は、タイトルが思いつかない場合の対処方法だ。こういうものは思いつきがすべてなので、考えて考えてひねり出す類のものではない。パッと思いつかなければ、わたしは捨てることにしている。そして木公里予という職人に委ねることで、本日のブログの運命を託しているのだ。

「起きてますか?タイトルお願いできませんか?」

恐る恐るLINEを送る。彼の調子がいい時は数分以内に

「おーれーにー」

「まかせろーー」

というお決まりの返事が来る。このテンションの時点で不安しか感じられないが、四の五の言ってる暇はない。タイトルがつかなければブログを投稿することができないわけで、とにかく何らかの文字が必要なのだ。

そしてすぐさま下書きの文章をコピペで送ると、これまた数分以内にいくつかの候補が送られてくるのがルーティン。

 

木公里予のタイトルに直球はあり得ない。必ずひねりや裏の意味があり、時には問題発言が含まれるためボツとなるタイトルも多々ある。そしてそのほとんどが、誰にも理解されぬまま通り過ぎていると思われるのだが、そこについても、

「別にいいだろ」

と低いテンションで他人事のようにあしらうあたりが、引きこもりネット住人の巨匠・木公里予らしいプライドが垣間見える。

 

そんな「タイトル職人」木公里予の最新作が、今回のタイトルである「一個ストックキョーヒー」なのだ。事の経緯としては、昼過ぎに木公里予よりLINEが届く。

「今日のまだー?昨日のも奇跡的にトイレに起きたときに発見したからね。一個ストックしてほしいわー」

いわゆるクレームだ。夜中に原稿を送り付けては即席でタイトルをつけさせるわたしに対して、せめて一本くらいストックしておけという警告とともに不満を突き付けたのだ。

これに対してわたしは必死にネタを考えた。だが当然、考えて出てくるものではない。そこで正直に、

「だ、ダメだ。思い浮かばない」

と返したところ、

「じゃ、一個ストックしてくれって言われてるのに、絶対にできない話でいいじゃん。タイトルは『一個ストックキョーヒー』で」

というアイディアをもらったのだ。そして、どうせ書くことも決まっていないわけだし、じゃあそれでいいかということで本日の記事が完成したわけだ。

 

――あぁ、今日もまたなんとかブログを投稿することができた。そして投稿した瞬間から、明日の不安が始まるのだ。

 

タイトルありきの方が書きやすい場合もあるが、とんでもないお題を課せられたりすれば、間違いなくフリーズするだろう。

だが案ずることなかれ。わたしにはサムネの魔術師とタイトル職人がついている。いくらでも「釣れる」要素は完備されているのだから。

 

サムネイル by 希鳳

 

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