サラダボウル店でサラダボウル現象

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良い悪いの話ではなく、東京が”人種のるつぼ”と呼ばれる日も近いのかもしれない——と、ビッグサイズのサラダボウルをつまみながら店員を見つめるのであった。

友人に連れられて、江戸川橋にあるサラダボウル専門店を訪れたわたしは、メニューを見ながらどれにしようか迷っていた。友人おススメの合鴨のサラダもいいし、塩麴のチキンサラダも捨てがたい・・ていうか、もも肉とむね肉って、どっちがわたしの好みなんだっけ?

そんなことを思っていたところ、突如、東南アジア系の男性店員が「イマ、コレガオススメデス」といって、別のメニューを差し出してきた——プロテインサラダ。なぜ、お嬢さま風の友人ではなく、わたしにだけ声をかけてきたのかは不問とするが、なにやらゴロゴロ入っておりボリューム満点なところが気に入ったので、とりあえずそれを選んだ。

 

そして、注文を終えてしばらくすると、友人が小声でこう話し始めたのだ。

「じつは前まで、可愛らしい女性店員3人でやってたんだよこの店。店内の雰囲気も素敵だし、いわゆるおしゃれカフェみたいな感じで」

なるほど、それは確かにイメージが湧く。テイクアウトのほうが利用客は多い雰囲気だが、若干のイートインスペースも確保されている店内は、サラダボウルの店であると知らなければ、洒落たカフェそのもの。

無論、東南アジア系の男性3人が切り盛りしているからといって、ダメだとかおしゃれじゃないとか言うつもりはない。むしろ、イマドキっぽい顔ぶれだな・・という程度で、サラダボウルもコーヒーもちゃんと美味かったわけで。

 

しかしながら、社労士であるわたしは内心思うところがあった。「あぁ、特定技能1号だな」——と。

特定技能1号は、外食・飲食業や介護、農業、建設業など14分野の仕事に就くことのできる、2019年に新設された在留資格のこと。それまでは、外国人が日本で働くには高度な技術や専門性が必要とされていたが、昨今の人手不足からビザの要件を広げたのである。

そして、特定技能1号の外国人を雇用する場合、住居確保や生活オリエンテーション、出入国の際の送迎など、10項目におよぶ生活支援が義務とされているので、雇用主が対応できない場合は登録支援機関へ委託する必要があり、二つ返事で引き受けられるほど簡単なものではない。

とはいえ、友人が語る「三人の女性店員」が全員姿を消して、今度は「三人の東南アジア系男性店員」に様変わりしたとなると、やはり特定技能1号を雇用したとみて間違いないだろう。

 

ちなみに、「外国人ならば安く雇える」という誤った解釈が未だに横行しているが、実際には日本人と同等またはそれ以上の賃金を支払わなければならないため、その情報は間違っている。しかも、都道府県ごとに最低賃金が設定されていることから、どんなに安く雇いたくても最低ラインを下回ることはできないのだ。

おまけに、在留資格を得て日本へ上陸した外国人にとって、職を失うことは日本での滞在が困難となることを意味する。そうなると、家族への仕送りや自身の技術習得も難しくなるため、多少のことでは仕事を放棄しない・・というかできないという事情がある。

——などと表面上は言われているが、実際に、顧問先で雇用した外国人が数日でバックレるというのはよくある話で、国籍や在留資格はあまり関係ないのかもしれない。

 

とにもかくにも、東南アジア系男性トリオが作るサラダボウルを貪り食いながら、”銀だこ”の店員がミャンマー人だったことや、コンビニの店員が全員東南アジア系だったことを思い出した。

(スムージーのマシンが壊れても、電源を何度もオンオフするだけで直し方知らなかったもんな・・・)

 

日本——殊に東京において、外国人の数は明らかに増えている。観光客もさることながら、留学や定住者といった在留資格でアルバイトをする者は多く、彼ら彼女らによって東京の街が支えられている・・といっても過言ではない。

そして近い将来、東京こそが「人種にるつぼ」と呼ばれるに相応しいエリアとなるだろう。もはや、日本語が一切飛び交わない中華料理店が存在するわけで、日本国内であるにもかかわらず「日本人お断り!」の看板が貼られる日も近い。そうなると、われわれ日本人の生活はどうなっていくのだろうか——。

 

(最近では”人種のるつぼ”ではなく”人種のサラダボウル”と呼ぶのが主流らしい・・なるほど、サラダボウル店でサラダボウル現象が拝めるとは、なんともオツなもんだ)

 

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