「通達の原文を読みたいのですが・・・」

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「昭和23年5月20日基発799号と、平成11年3月31日基発168号の原文、すぐに参照できたりしないよね?」

今朝のモーニングコールはこれだった。

この呪文めいたメッセージが何を意味しているかというと、「厚生労働省が昭和23年5月20日に発出した第799号と、同じく平成11年3月31日に発出した第168号の通達の全文を、すぐに確認することができる?(むしろ無理だよね)」という内容だ。

通達とは、行政官庁がその掌握事務について、上級機関から下級機関および職員に対して文書で通知することであり、上意下達の典型といえる。

 

ちなみに通達は、法律ではないが法律と同じくらいの効力がある。・・一体どういうことなのか、説明が難しいのでWikipediaで紹介されている例を引用させてもらおう。

「例えば『高齢者に給付金を与える。』という法令が仮にあったとすると、『高齢者とは65歳以上の者である。』という法解釈の考え方を示すのが解釈通達であり、『給付金の申請手続きの際は住民票を提出させろ。』という具体的な運用の手順・基準を示すのが取扱通達であり、『今年度中に給付金の支給を終えろ。』という法執行の方針・内容を指示するのが執行通達である。」

わたし自身、通達に種類があることを初めて知ったわけだが、言われてみればこういった内容で通達は発出されているのである。

 

そして、友人から打診された二つの通達に関する資料を、残念ながらわたしは持ち合わせていない。彼もすでにネット検索をしているだろうが、念のためざっとさらってみるが、やっぱり出てこない。

それどころか、"基発799号"という通達は「昭和23年5月20日」ではなく、「昭和47年12月23日」のほうが有名らしく、スクロールすればするほど「昭和47年の799号」ばかりがズラズラと現れるではないか——。

 

そのうち、ちょっと面白い検索結果を発見した。それは国立国会図書館への質問で、

「平成11年3月31日基発第168号の全文を探しています。労働省の通知かと思われます。」

という内容で、それに対する回答が

「ご依頼の件について以下のとおり回答します。ご依頼の通知『労働基準法の一部を改正する法律の施行に伴う関係通達の改廃について』(平成一一年三月三一日 基発第一六八号)については、下記の労働基準関係の資料及び厚生労働省のサイト、当館作成データベースを調査しましたが、通知全文を収録した資料は見つかりませんでした。」

という、なんとも絶望的な内容だった。国会図書館が見つけられない文書を、しがない庶民が発見することなど確実に不可能。どう考えても、これは早めに白旗を上げるべき事案だろう——。

 

とその時、わたしは自分が社労士であることを思い出した。

(・・そうだ! 労基署へ出向いて交渉すればいいのではなかろうか)

社労士が世話になっている行政官庁といえば、いわずもがな労働基準監督署である。ほかにも、ハローワーク(公共職業安定所)や年金事務所(日本年金機構)などが挙げられるが、労働法にかかわる案件は監督署ですべて解決できる・・といっても過言ではないくらいに、労働基準監督署にはすべてが揃っているのである。

 

こうしてわたしは、いそいそと近所の労働基準監督署へと向かった。

 

 

「通達?ネットは調べた?」

現役バリバリで働いているシニア職員が、予想外の質問をしてきた。見た目でヒトを判断してはいけないが、この世代が「ネット」という言葉をこうも自然に使いこなすとは驚きである。

「あ、はい。それと解釈総覧も見ましたが、全文が確認したくてここへ来ました・・」

次に飛んでくるだろう質問の答えを、先に伝えるわたし。するとシニア職員は、

「あぁー、うちも解釈総覧だからなぁ。ちょっと待ってて」

と、消極的なセリフを残して奥へと消えていった。

 

——それにしても、自分のところの親分が出した通達が、残っていないなんてこはないだろう。それとも、解釈総覧にまとめたら破棄しているとでもいうのか。いや、そんなバカげた話はないはずだ。

 

ちなみに、解釈総覧とは「労働基準法解釈総覧」の略で、労働基準法の各条文ごとに必要な政令・規則・告示・通達などが収録されている、実務担当のバイブルである。

もちろん、解釈総覧に記載されている内容は通達と一致するわけで、必要な内容が網羅されていればそれで終わる話だ。しかし、今回のミッションは「全文を参照できるかどうか」というもので、解釈総覧では足りないのである。

だからこそ、事前確認もせずに監督署へ突撃したわけで、何が何でも当該通達のコピーを手に入れなければならない。手ぶらで帰宅など、断じてあり得ないのだ。

 

「やっぱりねぇ、この通達はなかったですよ」

シニア職員が戻って来た。そんなバカなことがあるか!?もう一度よく探すか、労働局か厚労省に確認してくれ!!

「なんでかと言うと、すべての通達が公開されてるわけじゃないんだよね。だから、ネットや解釈総覧に載っていない通達については、うちでも分からないんですよ・・」

寂しそうな表情でそう呟く彼を見ると、それ以上なにも言えなくなってしまった。

 

・・まぁ確かに、必要な部分については解釈総覧にしっかりと記載されているわけで、それ以外の部分はいわば"オマケ"でありさほど重要ではないということだ。

今回、わたしは「全文が参照できないか」と聞かれたから通達の原文を求めていたわけで、社労士として実務上必要となる箇所は十分クリアしている。その他の部分は法律上の解釈の話であり、弁護士の範疇となるわけだ。

それにしても、今ならばすべての通達を電子データで保管することができるだろうが、昭和23年当時の書面を75年間もしまっておくには、あまりに長い時間が経過してしまったのだろう。

 

(・・ないものはない、仕方がないことだ)

 

それにしても、すべての通達の原文が閲覧できるわけではない・・という事実に、多少なりとも驚かされた。まさか、政府が発出した文書が残っていないだなんて——。

 

サムネイル by 希鳳

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