「真珠」からすれば「ブタ」は選ばないってこと

Pocket

 

6月後半は、社労士にとって最も多忙な時期となる。

労働保険料の申告、いわゆる「年度更新」と、社会保険料の向こう一年間の等級を決める「算定基礎届」の手続きが、同時期かつ短期間に行わなければならないからだ。

 

年度更新は6月1日から7月10日(今年は12日)までの申告・納付となっているが、算定基礎届の申請は7月1日から7月10日(今年は12日)までの期間しかない。

そして算定基礎届は「7月1日現在の状況」で申請するため、6月中は身動きがとれないのだ。

 

そのため、わたしは年度更新を先に済ませ、7月に入った瞬間に算定へと切り替えるスケジュールで進めている。

 

さらにこの時期こそ、顧問先・関与先との連携プレーの見せ所でもある。

「頼むからさっさと送ってくれ!」と、喉から手が出るほど欲しい「申告書」の到着を願うわたしに対し、それがさっさと届いた日には、「グッジョブ!」とガッツポーズしている。

 

だが多忙と同時に、この時期になると思い出す「ある事件」がある。

 

事件と言うほどのものではないが、わたしにとってはそれが初めての「お飾り扱い」だったため、印象深かかったとでも言おうか。

 

誤解のないように伝えておくが、わたしはあえて面白おかしく盛った表現をする。

よって、同じ職業に就く人全員がこうだと言うつもりではないので悪しからず。

 

 

わたしは、生命保険の営業(外交員)という職業の人が苦手だ。

 

元から知っている人物がその仕事に就いたのならば別にいい。

だが初対面で、

「自分、●●デンシャル生命で、昨年の売上げトップでした!」

などと挨拶をされた日には、嫌悪感しかない。

 

ある日、友人から生命保険の営業マンを紹介された。

企業向けの福利厚生や退職金として、生命保険や養老保険を活用できたら顧問先への良きサービスとなるのではないか、という親切心からの紹介だった。

 

その営業マンはお調子者で、自らの自慢ばかりする男だった。だがそこについては何とも思わない。むしろ共通の話題があれば盛り上がるので、どんどん話してくれたらいい。

そのうち、

「自分のお客さん、紹介させてください!」

と言い始めた。

 

わたしからしてみれば、クライアントを紹介してほしいという気持ちは微塵もない。

ましてや、どこの馬の骨かもわからない初対面の営業マンから紹介されるクライアントなど、信頼できるかどうかすら微妙だ。

 

「誰かの紹介」というのは、間に入る人間が担保となり成立する。

 

相手との信頼関係、責任感、人間性などを踏まえて受任するしないを決めるのであり、「金がほしいから」といって、誰とでも契約をするわけではない。

 

さらに「誰かの紹介」は、間に入った人間の価値が試されるわけで、双方の関係性にヒビが入ることすらある。

だから友人に仕事を依頼する時や人を紹介する時は、いつだって身を削る思いで繋いでいる。そう容易く、ホイホイ放り投げられるものではないのだ。

 

そして営業マンは続けざまにこう言った。

「自分の大切なお客さんなんで、服装とかしゃべり方とか気を付けてくださいね。僕の顔に泥を塗るような真似だけは、しないでくださいね」

もちろん笑いながら、冗談半分のつもりだったのだろう。

 

だがその瞬間、わたしの堪忍袋の緒が切れた。

「キミはさ、アタシの何を知ってるの?どの口がその発言してるの?」

笑顔でそう質問した。さすがに営業マンは引きつった顔になる。

 

「アタシに仕事頼みたいなら、もう少しアタシを知ってからにしたら?よく知らない社労士を大切なお客さんに紹介するって、それこそ裏切り行為じゃないかな?」

 

そして返事も聞かず、わたしはその場を去った。

 

 

この事件は、何年経っても忘れられない思い出となった。

 

あの時わたしは営業マンの「立派なお飾り」として、見知らぬ客へ差し出されそうになったのだ。

「あんたはオレ様のお飾りなんだから、オレ様を引き立ててくれなきゃ困るんだよ」

暗にそう言われた気がするし、あながち間違ってはいないだろう。

 

わたしが「装飾品」としてその人を輝かせたいと思うのは、やはりその人との信頼関係でしかない。

「どうにかしてあげたい」とこちらが思うような間柄こそ、わたしをお飾りにできる相手だ。

 

それを「どうにかさせなきゃ」などと思われるようでは、飾り物も光るわけがない。それこそ、豚に真珠ってやつだろう。

 

この時期、必然的に社労士にお声がかかりやすくなる。

そうでなくても昨今の流行りである「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」のせいで、助成金の相談や依頼が急増している。

 

もちろん、正当な理由なく依頼を拒否することはできない。だが、信頼関係の築けないクライアントとの仕事は、わたしには無理だ。

 

その代わりこちらは、もし何かあった際にはその人のため、その会社のために全てを失う覚悟で業務に邁進しているのだから。

 

 

Pocket