(あぁ、今日で7月が終わるじゃないか)
一年で最も昼が長いとされる「夏至」は、6月21日に過ぎ去った。体感的には7月や8月こそが真夏だが、中国で誕生した二十四節気(にじゅうしせっき)は、若干のズレがある模様。
とくに梅雨のような日本特有の気象現象のおかげで、文字通りの季節感を感じられないところがある。
太陽がもっとも高く昇る夏至は、イメージ的には夏ど真ん中だが、実際にはじとじと湿った梅雨の最中に訪れるわけで。
そうこうするうちに明日から8月が始まるが、8月7日が何の日かご存じだろうか?二十四節気では、なんと季節が変わり「立秋」と呼ばれる日なのである。つまりもう「秋」が目の前に迫っているのだ。
8月といえば真夏の代名詞ともいえる月。青い空に白い入道雲、光る汗とポカリスエットが似合う季節のはず。それが、あと一週間で秋の始まりだなんて、とてもじゃないが信じられない。いや、信じたくない。
そういえば、ふと気づいたことがある。今年、蝉の鳴き声がうるさいと思った記憶がない。
朝の5時過ぎから徐々に鳴き始め、夜中に間違って鳴いてしまうおっちょこちょいもいるが、彼らの声を「うるさい」と感じた記憶がないのだ。
たしかに都心に住んでいれば、緑も少ないゆえに蝉の数も少ない。だが毎年、「うるさいなぁ」と一度は思うことがあったように記憶しているのだが、勘違いだろうか?
「今年は蝉が少なくてホッとしてます!」
後輩が嬉しそうに語り始めた。私の脳内が透けて見えたのだろうか。奇遇にも、私と同じく「今年は蝉の数が少ない」と感じている彼女は、毎年、蝉に追いかけられておしっこを掛けられるのが恒例なのだそう。
わざわざ人間を追いかけて放尿をする、などというハイレベルな行動を蝉がとれるとは思えない。
だが野生の勘というやつで、美人を追尾する習性があるのかもしれないから侮れない。
その話を聞いて私は、今年に入ってまだ一度も目にしていない生き物がいることを思い出した。
実はこの件、ずっと気になっていたのだ。冬の間はどこかでおとなしく潜んでいるのだろうが、春になっても夏になっても、一度も姿を見かけないことに一抹の不安すら感じていた。
その生き物とは「ゴキブリ」だ。道路を歩いていると、カサカサ横切る黒い影を、今年はまだ一度も見かけていないのだ。
あれほどまでに生命力の強い生き物が、暑さや寒さに怯んで姿を隠しているとは思えない。とはいえ、私がたまたま見ていないというのも、確率的に考えにくい。
――ではいったいなぜ?
と思った瞬間、私の前方20センチのところに、粉々になった赤茶色の羽のような甲羅のような、脂っぽい輝きを放つ残骸を発見した。
そう、ゴキブリの屍だ。
まさか口にした途端に願いが叶うとは。どうせならばこんなことで、その運を使いたくはなかった。
「願いが叶って、よかったですね」
嫌味のない可愛らしい笑顔で、後輩がそう言った。
*
二十四節気の話に戻るが、今年は12月22日が「冬至」である。一年でもっとも昼が短い日ということは、この日を境に少しずつ昼が長くなるわけだ。
ちなみに真冬といえば、1月から2月にかけての寒さが厳しい時期をイメージするが、その頃は暦の上では春となる。
なお、2月4日は「立春」ということで、真冬にもかかわらず春の身支度にソワソワし始める頃でもある。
季節だけじゃない。人生、山あり谷ありは当たり前のこと。堕ちたら上がるしかないわけで、残念な出来事があったその瞬間から、ちょっとずつ上向き始めているということを、覚えておいてほしい。
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