そばにいるよ

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ーーくそっ、眠れない。

眠れないその原因は、蕎麦にある。前回、蕎麦をレンジで茹でたのだが、その結果ドロドロの「蕎麦がきもどき」が完成し、わたし自身は大変満足した。だが果たして本当にあれでよかったのだろうかーー。

蕎麦にまとわりつくヌメヌメした感じがなければ、ひょっとするともっと美味しい蕎麦になっていたと考えられなくもない。

とはいえわたしはドロドロの粉っぽい食べ物が好きだから、あれでいい。あれで満足しているのだが、万が一の可能性を考えると、もっと適切な調理方法がないとは言い切れない。

 

そこでわたしは深夜のコンビニへ向かい、生蕎麦を購入した。

 

前回同様、スタートはおなじみのティファールで湯を沸かし、耐熱ボウルに寝かせた生蕎麦へと浴びせかける。それを箸でほぐし、なんとなく蕎麦に変化させる。

今回着目したのは「ゆで汁」だ。みるみる白く濁りとろみが出てくる。これを飲んだら間違いなくうまいだろうーー。

ここでわたしはハッとなった。つまりこの汁を取っておいて、後でこれだけを飲めばいいのではないか!

 

ものすごい妙案だ。さっそくマグカップへゆで汁を注ぐ。まろやかなのどごしが、飲むまでもなく汁のテクスチャーから伝わってくる。さらには上質な温泉の湯にも見える。

ゆで汁を奪われた蕎麦へ、再びティファールから熱湯を注ぐ。そしてそのままレンジへと移動し、2分加熱。

 

蕎麦が茹であがるまでの間、マグカップになみなみと湛(たた)えられた蕎麦湯を飲んでみる。とても濃厚で濃密で、「飲む」にはもったいないほどの飲みごたえ。むしろこの汁に何かをディップしてもいい。ゴクゴク飲み干すよりは、咀嚼(そしゃく)を加えたほうがより正しい味わい方である気もする。

 

そうこうするうちにレンジが鳴った。耐熱ボウルを取り出すと、そこにはボリュームアップした蕎麦がたたずんでいる。箸で動かすと、くっついてしまった大きな蕎麦の塊がゆっくりと波打つ。

ーーいまがベストな状態だとすると、これ以上の加熱を止めなければならない。

そう、このまま熱い湯に漬けておけば少なからず加熱が続く。もし今がベストな蕎麦ならば、これ以上の加熱は蕎麦の劣化につながるわけで、蕎麦に対して失礼となる。

 

生蕎麦のポテンシャルを最大限引き出すためにも、わたしは水道の蛇口をひねった。東京都が誇る最高品質の水道水で、熱々にほてった蕎麦を冷やしてやるのだ!

心なしか蕎麦の表面がツヤツヤ輝いてみえる。キリっと引き締まったその容姿は、そこら辺のダルダルな中年とは明らかに違う、好青年の風格。

(・・・ありがとう)

蕎麦がわたしにそんな言葉を投げた気がする。とんでもない、わたしが間違っていたよ。キミが輝くためには水で洗い流すという行為が必要だったんだね。それをわたしは、めんどくさいからと省いてしまったーー。

 

ある程度水で流した後、かけそばにするにはつゆの作り方が分からず、結果、つけそば一択。コンビニで買った生蕎麦にはつゆが付いているため、これをコップに入れれば完成だ。さて、お味はいかにーー。

 

(・・む、むちゃくちゃ美味い!!!)

 

前回のモッタリドロドロよりも、今回のコシがあるツルツル蕎麦のほうが数倍うまい。いや、数十倍うまい。ゆで汁を捨てるという行為、そして水で洗うというひと手間が、こんなにも蕎麦を変えるのか!

 

わたしの疑問は解決した。やはり先人の教えに従うことが正しい。この期に及んで凡人が新たな発見をする余地などないのだ。

 

これでスッキリしたわけで、さて、寝るとしよう。

 

 

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