部屋と除湿器と私

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これからの季節、恐れるべきは明け方だ。わたしは今朝、二重、いや三重苦に襲われた。だがどうすることもできず、一人毛布に包まり震えていた。

 

朝6時半、眠りについて2時間ほど経った時点で目が覚めた。その理由は二つある。一つは毛布一枚では寒さに耐えきれなくなったため。そしてもう一つは尿意を催したため。

(寝る直前にシャインマスカット2房食べたからかな)

意識は朦朧としているが、そんな状態でも室内の異変に気付く。そう、除湿器が停まっていたのだ。我が家はコンクリートに囲まれた高湿空間にあるため、室内で洗濯物は乾かない。そこで24時間体制で除湿器を稼働させている。

ところが今、その除湿器が止まっているではないか。これでは柔術着が乾かないどころか、雑菌の繁殖による悪臭が発生してしまう。もうすでに、かすかな異臭を感じる。

 

(まずい、除湿器がタイマーで止まったんだ。ボタンを押さないと…)

 

空気の対流がないこの部屋はシンと静まりかえり、寒さであふれている。

――なぜわたしは半袖でベッドに入ったのだろうか。寝る直前までは暑かったのだろうか。

とにかく掛け布団のない我が家では、唯一の防寒具がニトリの毛布なのだ。その毛布一枚に半袖短パンで包まるわたしは、仔犬のようにブルブル震えていた。これじゃ悪夢も見るし目も覚めるわ――。

 

かろうじて温かさを確保する「毛布」というシェルターから抜け出し、除湿器のボタンを押すミッションを遂行するには、相当な覚悟を要する。毛布の下にある手足は温度を失い、まるで冷たいミカンを触っているかのよう。それなのにさらに過酷な環境へ身を投げ出すとは、自殺行為といっても過言ではない。

考えてもみろ。もしこの空間が放射能で汚染されているとしたら、毛布とベッドという安全地帯から抜け出すことは、誰が見ても明らかにハイリスクな行動だ。命を投げ出してまで放射能を浴びたいのか!

 

(だがこのままボタンを押さなければ、洗濯物はいつまでたっても乾かない。乾かないどころか臭くなる)

 

その反面、ある意味では一刻を争う事態でもある。放置して乾燥するならばわたしも焦らない。だが柔術着は生地が厚く目も詰まっているため、速乾がマストとなる。ましてや一度臭くなった柔術着のニオイはそう簡単にはとれないため、場合によっては泣く泣く捨てることとなる。

柔術着というものは決して安くはない。わたしが除湿器のボタンを押すことで柔術着を無駄死にさせずに済むのならば、たとえ放射能まみれの空間だとしても突撃しなければならない――。

 

さらに一度ベッドから離れれば、そのついでにトイレへ行くこととなる。もし今、除湿器が動いていたならばわたしは静かに目を閉じ、再び眠りについただろう。だが除湿器が停止している以上、アレをどうにかすることが最優先課題となるわけで、どうせ重い腰を上げたのならばトイレまで足を延ばすのも選択肢としてはアリ。

そして問題となるのはその後だ。除湿器のボタンを押し、トイレへ行き、完全に目が覚めた状態で再びベッドへ横たわる。さて、寝られるだろうか。――確実に無理だ!

 

わたしが床に就いたのは4時半過ぎ。そこから2時間後、寒さと尿意で目が覚めた。個人的にはあと2時間は寝たいところ。しかし眠るという行為は、自発的に行おうとして実行できるものではない。つまりタイミングが重要となる。

――ここへきて、あえて目を覚ます方向へ進む必要があるのだろうか?すべてを我慢すれば、すぐさま夢の世界へ戻れるのではなかろうか?

 

(いや、ダメだ。柔術着が臭くなるのは我慢ならぬ)

 

わたしの中の天使と悪魔が可否得失を論じた結果、やはり一番重要なのは「柔術着の生乾きを防ぐこと」という結論に達したようだ。たしかにその通り。一時の感情に流されることなく、この先起こりうる不具合の程度を想像すれば、今すべきことは除湿器のボタンを押すことだ。その先トイレに行こうが行くまいが、それはわたし個人の自由。すぐさま眠りたいのならば、トイレの選択肢を捨てて素早く毛布に潜り込めばいいだけのこと。

うん、そうしよう――。

 

覚悟を決めたわたしは、モゾモゾと毛布を背負ったまま向きを変えると、力の限り手を伸ばす。あともう少しでボタンに触れられる…というところで、背筋むなしくドサッと床に崩れ落ちた。今度は右手を床につき上体を持ち上げると、精一杯左手を伸ばして除湿器のボタンに触れる。

(・・・あれ?)

カチっとボタンを押すも、除湿器が稼働しない。再度しっかりと押し込むも同じ。――どういうことだ?

 

両手を床につくと首を伸ばして点滅するランプの表示を見る。するとそこにはこの表示が。

 

「満水」

 

――無理だ。タンクの水を捨ててからボタンを押すなどという高度なミッション、今のわたしには不可能だ。

 

 

サムネイル by 希鳳

 

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