矯正壮観

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最近、友人が歯の矯正を始めた。

思えば小中学生の頃、前歯に金具を付けたクラスメイトがいたが、単純に金具で押し付けて歯列を矯正しているのだと思っていた。もちろんそういう場合もあるのかもしれないが、友人の場合は中央から4本目の歯を抜いて、その隙間を埋めるかのごとく6本の前歯を後退させるらしい。

(健康な歯を抜くなんて、もったいない・・・)

わたしは昨年、右上の奥歯を失っている。原因はボンゴレビアンコに入っていたアサリの貝殻を噛んだことによる、歯根破折(歯の骨折)だ。ものを噛んで歯が折れるとは、人間界のぬるま湯につかりすぎて野生の厳しさを忘れた証拠といえる。

それどころかもっと昔には親知らずを一気に4本抜いている。無駄に生えてきた歯ではあるが、「小顔になれるよ!」とそそのかされてすべて引っこ抜いたにもかかわらず、まったく小顔にならないという忌々しい過去を思い出す。

 

そして永久歯というのは一度抜いたら二度と生えてこない。それ以前に、歯は折れたりヒビが入ったりすると二度とくっ付かない。骨の仲間にもかかわらず骨の組成が異なるため、自然に治ることはないのだ。

そんなシビアな歯という骨を、見た目のために2本も抜いてしまうとは…。

 

だが実際にはこういうことらしい。

「歯列がわるいと歯ブラシが行き届かず、虫歯や歯周病のリスクが格段に上がる。あとは食べ物の噛み方や笑い方、発音にも変化が出るので、QOLが上がる」

という効果が期待できるのだそう。そういえば「8020運動」というのを聞いたことがある。80歳になっても自分の歯を20本以上保とう!という、日本歯科医師会推奨の運動である。

つまり、将来的に自分の歯を残すためには、健康な歯を2本抜くことになろうが、今のうちから歯列矯正をしておく方が安心といえる。

 

というわけでメタリックな強制装置を付けた友人は、恥ずかしそうにこう言った。

「笑うとココの歯がないからマヌケでしょ、恥ずかしい」

この言葉に頷けないどころか、わたしは大きな疑問を抱いた。いきなり前歯がなければ、マヌケというより驚くだろう。だが前歯に君臨する矯正装置を見れば、なぜ歯がないのかは一目瞭然。そこへきて、

「わぁ、歯がなくてマヌケ~!」

などと笑う人間がいたら、ぜひともお目にかかりたい。たとえるなら、足を骨折して松葉杖を使って歩く人を見て、

「変な歩き方しててウケるぅ~!」

と本気で思う人間などいるのだろうか。脳梗塞の後遺症や末梢神経障害のように、パッと見では気付かない麻痺や硬直がある人も大勢いる。最初は「どうしたんだろう?」と思わなくもないが、しばらくすればそのくらいのことは察しがつくわけで、道を譲ったりエレベーター乗降の際に配慮したりするのが当たり前。

それを笑うというのは、幼稚というか時代遅れというか経験が浅すぎるというか、同じ日本人としてとても恥ずかしい。

 

実際のところ、友人は美人でスタイルもいい上に頭もいい。さらに美意識の高い女だからこそ、己の「マヌケ」な見た目を許せないのだろう。セルフ・ハンディキャッピングというか、美人のサガというか。

 

見ればわかることだけでなく、考えればわかること、さらに想像すればわかることはたくさんある。だがそれらを放棄して、表面的な情報のみで判断を下す人もいる。その判断結果は短絡的だし、誤解も著しい。

だからこそ、立派なガタイのわたしが優先席に座りたがっている時は、体調不良か怪我をしているのだと察してもらいたい。そんな瞬間は滅多にこないのだが…。

 

 

サムネイル by 希鳳

 

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