自身の好みを追求するのもいいが、己の知らない世界・・というと大袈裟だが、自力では得られないであろう何かを知ることは、これもまた素晴らしい経験となる。具体的にどのようなことかというと、たとえば「友人からもらう菓子」がそれにあたる。
無類の抹茶好きであるわたしは、抹茶系の菓子をもらうと無条件で喜ぶし、贈り主に対して尻尾を振ってついていく傾向にある。そして、それがどんな味であろうが、わたしの好み——すなわち”わたしと抹茶の存在”を覚えていてくれたことに感謝と歓喜を覚えるわけで、それだけで美味いと思えるのである。
だが、わたしの好みを度外視して「当人が美味いと感じる菓子」をもらったとき、そのほとんどが「わたしも美味い」と感じるから不思議である。
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「レモンって好き?」
突如、このような質問をされたわたしは戸惑った。仮にレモンの砂糖漬けならば好きだが、柑橘系が特別に好みであるわけではないので、「好きかどうか」と問われると答えに窮する。そんなわたしの様子を見た友人は、
「レモンケーキなんだけどさ・・」
と、全貌を明かしてくれたのだ。
とはいえ、レモンケーキというものを率先して食べたことのないわたしは、これまた返答に困った。対象物がチーズケーキならば、即答で「好き」と言えるが、レモンケーキが好きかどうかと聞かれると、もちろん嫌いではないし、かといって好きと言い切れるほどの経験値を持っていないわけで——。
(・・ここは「好き」の方向性でいこう。なぜなら、彼女が勧めてくる食べ物は、これまでも間違いなく美味いものばかりだった)
などと考えていたところ、
「じつは、ちょっと美味しいレモンケーキをお取り寄せしたんだけど、どうかなと思って・・」
と、さらなる理由を教えてくれたのだ。なるほど、これは間違いなく食べておくべきだ——。
こうして、わたしはほぼ人生初となるレモンケーキを食すこととなった。
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(可愛らしいパッケージだな・・)
猫がレモンの乗り物に乗っているカードが添えられた、レモンケーキの詰め合わせをもらったわたしは、「まずは見た目から」の法則に従ってこの菓子を高評価とした。
ヒトも食べ物も、まずは見た目から——これは鉄則である。必ずしも「見た目がイイ」というのが条件ではなく、本質的に惹かれるかどうかが判断基準となる。
しかしながら、後にも先にもレモンケーキというものを食べた記憶がないわたしは、果たしてこのサイズが一般的なのかどうかが分からない。フォルムは、レモンを型取ってあり真ん中がぷっくら膨らんだラグビーボールのような形状だが、一口サイズではなくしっかりとした重量感がある。
(わりと立派な菓子なんだな)
とりあえず、一つ味見といこうじゃないか——というわけで、箱を開けるとすぐさまレモンケーキをつまみ上げ、個包装を破り開けた。その瞬間、芳醇なレモンの香りが漂ってきた。さらに、じんわりとジューシーな風味が口に入れる前から想像できる。
そして、いよいよ実食——。
(・・・・・・!?)
「これがレモンケーキというやつか!?」と、思わず心の中で叫んでしまうほどの衝撃を受けたわたし。
正直なところ、マドレーヌの延長のような見た目と生地だったので、さほど期待はしていなかった。なぜなら、このような菓子は世の中にごまんとあり、そんなものが特段美味いはずもないからだ。
だがこのレモンケーキは、本気(マジ)で美味い。まずは食感だが、明らかに上質でしっとりとしている。これ系の菓子は、大体がパサパサしているか、あるいは「しっとりしている」といってもやたらシロップがしみ込ませてあるだけで、過度な甘みが嫌悪感を誘うもの。
ところがこれは違った。レモンとバターの上品な風味がふんだんに注ぎ込まれており、口へ入れた瞬間にまるで洪水のようにヨダレが押し寄せてくるのだ。
そして、いつまでも残るレモンの余韻といったら、味わった者にしか分からないであろう感動を覚えるレベル。一般的なレモンケーキから想像される「人工的なレモンの風味」ではなく、リアルなレモンの酸味と甘みが、口の中だけでなく咽頭から鼻腔まで惜しみなく広がるのだ。
加えて、このボリュームよ! 一個でもしっかりと得られる満足感は、もらい物としては最高の価値を叩き出している。当然ながらわたしは、手を止めることなくレモンケーキをすべて食べ尽くしたが、これならばあと20個はイケる美味さである。
(あぁ、また贈られてこないかな・・)
もらった立場で図々しいことをいうようだが、躊躇せず「おかわり」の意思表示をするほどに、芯を食う美味さだった。
では、改めて「レモンケーキは好きか?」と問われたら、わたしななんと答えるだろうか——やはり、「分からない」だろう。世間一般のレモンケーキが好きなわけではく、友人からもらったこのレモンケーキが好きなのだ・・という自己分析だからだ。
おっと、散々「美味い美味い」と連呼しておきながらも、どこのレモンケーキかをひた隠しにしてしまった。これは「レゾンデートル本八幡」という、千葉県唯一のレモンケーキ専門店の看板商品である。オーソドックスなレモンケーキのほかにも、グルテンフリーな米粉のレモンケーキや、季節の果物とレモンと掛け合わせたカヌレ型のレモンケーキ、さらには、こんにゃく粉を使ったレモンのマドレーヌなどが揃っている。
そして極めつけは、友人が放ったこの一言だった。
「レゾンデートルっていう店名が、個人的には気に入っているの」
レゾンデートルとは、フランス語で「存在理由、存在意義」を意味する。レモンの存在意義にこだわった焼き菓子・・という観点からも、また、実直で責任感の強い友人が好むであろう言葉であることからも、自然と合点の行く発言に思えたのである。
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世の中にはわたしが知らない美味い菓子が山ほどある。これからも、どんどん甘やかされてどんどん貢いでもらいたい・・と願うのであった。
レモンケーキ、超好きなんで買ってみます!!
富井超えなるか!?笑
食べて感想述べますね(笑)!
ぜひとも頼むわ!笑
でも富井のシュトーレン、また食べたいな🤤