牛肉よりも豚肉のほうが好きなわたしは、必然的に「牛丼」というものを食べないわけだが、たとえば焼き肉やステーキ、牛すじ煮込み、ローストビーフなどは好んで食べるので、調理方法や肉の質(状態)による問題なのだと思う。
とはいえ、牛丼ならぬ豚丼は食べない・・というかあまり好きではないので、〇〇丼という形で提供される肉がダメなのかもしれない。同じ肉なのになぜハッキリと好みが分かれるのかは、わたし自身にもよく分からない謎ではあるが。
そんな反牛丼派のわたしに思わぬ朗報が入った。それは、大手牛丼チェーン店・吉野家にて、牛タンのメニューが期間限定で登場したことだ。
「牛タン」といえば言わずもがな「ねぎし」だが、まさかの吉野家で牛タンを食べられるとは、牛肉ではあるが意外な印象である。しかもよくよく考えてみたところ、牛丼の上に載っている肉の感じがダメなだけで、焼き肉もステーキも牛タンもしっかりとした歯ごたえと重さのある固形物であり、これならば好物として分類されるのだ。
そんな「食べられる牛肉料理」がラインナップとして追加されたことに加えて、ライスが「もち麦ごはん」であること、さらに牛タンとは切っても切れない仲である「とろろ」までもがセットで付いているとあれば、吉野家に行かない手はない——。
というわけで、さっそく一人で吉野家へ向かうことにしたのである。
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(いや、やっぱり持ち帰ろう・・)
店の前まで来たはいいが、殺伐とした店内で急かされながら「牛タン麦とろ御膳(ご飯大盛)」を搔っ込むのは勿体ない。断じてひよったわけではなく、できればじっくりと味わいながら咀嚼をしたい・・という、食へのあくなき探求心を尊重した結果、テイクアウトにて牛タンを注文することにした。
いかんせん食べるのが遅いわたしは、誰かと食事をするのが億劫でならない。ただでさえこれなのに、しゃべりに夢中になって箸が進まなくなることからも、「どうせなら一人で食べるほうが気が楽だ」と、いつしか思うようになった。
だが、一人とはいえ店内の雰囲気は重要である。立ち食いそばがその典型だが、「とにかく急いで食べて、さっさと店を去れ!」というコンセプトの店では、やはり味わうというよりは空腹を満たすための”行為”となる。ならば自宅で一人、ひっそりと咀嚼に励むほうが牛タンも麦とろご飯も幸せだろう——。
などと、牛タンとの至福の時を妄想しながらテイクアウトのビニール袋を受け取ると、踵を返して颯爽と店を出るわたし。すると、外国人店員が「お客さん」と声をかけてきたので振り向いたところ、なにやら白い紙を手渡そうとしていたので「あぁ、レシートは要らない。ごめんね」と断り、再び出口へと向かった。
ところが、「あ、レシートじゃなくて・・」と言いながら差し出す彼女の手のひらを見ると——そこには「200円」の文字が記されたクーポンがあった。
”銭ゲバのシロガネーゼ”という異名を持つわたしは、「〇〇%引き」とか「〇〇円オフ」の表示に弱い。すぐさまそのクーポンをひったくると、丁寧に折りたたんでポケットへと突っ込んだ。
(よし、これで明日も牛タン麦とろ御膳が確定だ)
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そして翌日、昨日と同じメニューを注文すると同時に、いそいそと200円クーポンを差し出したところ、外国人店員はニヤリと白い歯を見せながらクーポンに印字されたバーコードを読み込んだ。そして、見事に200円引きにて牛タン麦とろ御膳(ご飯大盛)を手に入れたわたしに向かって、改めて「白い紙」を突き出してきたのだ。
(な、なんだと!?!?)
——そう、なぜかまた200円のクーポンをくれたのだ。ファミマやローソンでたまに当たりのレシートが出るかのように、わたしは二日連続で200円クーポンを引き当ててしまったのか?
どうやらこれは期間限定のキャンペーンで、吉野家で夕方5時以降に食事をすると翌日200円オフとなるクーポンが発券される仕組みらしい。しかも「翌日限定」というところがポイントで、明日このクーポンを使って吉野家を利用すれば、再び新たな200円クーポンがもらえるため、キャンペーン期間中は毎日200円引きで牛タンが食べられる・・ということなのだ。
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こうして、吉野家などとはまるで縁のない人生を送っていたにもかかわらず、今日で4日連続となる吉野家来店記録を更新中のわたし。そしてポケットには、本日限定の200円クーポンが神々しく眠っているわけで、この恐ろしく巧妙な無限ループがいったいいつまで続くのか、自分自身でも分からないのである。
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