(なんと、スイカは格闘家に人気なのか・・・)
プロ格闘家である友人の「前日計量」に同行させてもらった際に、彼女はカットスイカを持参していた。わたしも毎日カットスイカを食べているので、なんだか親近感がわく。
すると、近くに座っていた別の選手も、大きな容器に入ったカットスイカを食べ始めたではないか。これはもしや、格闘家の間でスイカが大人気なのではなかろうか。
たしかにスイカは、水分たっぷりでいつどんな時でも食べやすい。
「果物など、どれも水分だっぷりだろう?」と思われがちだがそれは違う。そもそも果汁ビシャビシャではないバナナや柿は別として、たとえばパイナップルであれば強固な繊維が歯に挟まったり、パイナップル特有の酵素(ブロメリン)のせいで舌がピリピリしたりと、いつどんな時でも大量に食べられるとは言い難い。
また、桃やいちご、メロンやブドウなどもジューシーで食べやすいが、当然ながら値段が高い上に、デカい種に大量の葉っぱ、分厚い皮や頑丈な茎のおかげで後始末に手間がかかる。
その点、スイカはコスパが最高である。
同じ金額の果物といえば、今の時期ならば白桃だろう。二個で800円ほどの白桃と、一パックで800円ほどのカットスイカ(大)ならば、可食部を比較すると圧倒的にスイカに軍配が上がる。
なんせ白桃には、ど真ん中にでっかい種が埋まっているため、およそ三分の一は食べることができないからだ。
とはいえ、カットスイカは透明な容器に入っているため、食べ終わるとゴミが発生してしまう。そのため「エコじゃない!」などと白い目で見られがちだが、そのような攻撃をするのであれば代替案を挙げてもらいたい。
物事をただ単に否定することは簡単である。しかし、もしも痛烈に批判をするならば、その代替案を用意するのが礼儀だろう。
というわけで、カットスイカほど大量の果肉と果汁を摂取できて、おまけに味も食べごたえも十分満喫できる果物は他にないのである。つまり、コスパあるいは利便性を考慮した上で、プロ格闘家たちはリカバリー(減量後の水分・食料補給)の際にスイカを好んで食べているに違いない。
「いや、普通にスイカが大好きなだけ」
・・うん、そういう人もいるだろう。友人がスイカ好きでよかった。なぜならわたしも、スイカが大好きだからだ。
*
スイカといえばSuicaだが、昨日わたしは南北線車内で、Suica入りパスケースを拾った。
善良な市民であるわたしは、そのパスケースを最寄り駅の駅員に届けたのだが、そこで名前や連絡先を聞かれなかったことに腹を立て、「せっかくのお礼の品をもらい損ねた!」と発狂していたわけだ。
とはいえ、「いいことをしたのだから、きっといつか自分にもラッキーが訪れるだろう」と考え直し、今日という日をウキウキと過ごしていた。
そして目的地へ向かうのに、炎天下を歩くのは命の危険があると察知したわたしは、周囲をキョロキョロしながらタクシーを探した。
これまた数日前に、タクシー待ちでひどい目にあったわたしは、「今日こそは早めに見切りをつけて、アプリでタクシーを呼ぶぞ」と心に誓っていたのだが、一分もしないうちに空車のタクシーが現れた。
(ラッキー!!)
腕が耳にピタッとつくほどしっかり手を挙げながら、わたしはタクシーを捕まえた。最近では珍しく、セダンタイプの個人タクシーだったので、ドアが開くとやや後ろから体を斜めにしてシートへと滑り込んだ。
近所への移動だったため、あっという間に目的地へと到着。そして支払いをしようとした時のこと。
「スマホ決済ってできますか?」
「すみません、現金かチケットかクレジットカードになります」
(まぁ、個人タクシーだから仕方ない。クレジットカードが使えるだけでも御の字だ・・)
そこでわたしは、横に置いたリュックからクレジットカードを取り出そうと、右を向いてリュックのファスナーに手をかけた途端——、
(・・・・え?)
なんとそこには、ピンク色のパスケースに入ったSuicaがポツンと取り残されていたのだ!
(こ、これはさすがに罠だろう。誰か昨日、わたしがパスケースを拾ったのを見ていた奴がいて、だったら今日も試してやろうと、わざとこうやって似たようなパスケースを置いたんだ。・・いやまてよ、まさかこの運転手が犯人か?だとしたらなぜ、わたしがこのタクシーに乗ると分かったんだ?盗聴?情報漏洩??)
支払いより先に、わたしは運転手にこう尋ねた。
「あのぉ、わたし昨日も似たようなパスケースとSuicaを拾ったんですけど」
すると運転手は、
「はぁ、そうですか。お支払い方法はクレジットカードでよろしいですね?」
と、わたしの言葉など完全に無視でクレカ端末の操作をしていた。
(・・おかしい。こいつが犯人ではないとなると、いったいどこの誰がこんな罠を仕掛けたというのだ。しかも、何の目的でこのような意味不明な行動をとらせるのだろうか。いつかわたしが盗むとでも思っているのか——)
というわけで、二日連続でスイカも食べたし、Suicaも拾ったのであった。
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