牛丼チェーン店やファストフード店には滅多に入らないわたしだが、たまたま通りがかった「なか卯」に貼られたポスターを見るや否や、無意識に店内へ吸い込まれる・・という出来事があった。
丼もの嫌いのわたしが、なんの躊躇もなく店へ足を踏み入れるに至った”商品”とは——ゆずネードスカッシュという飲み物だ。
牛丼店ならぬ親子丼店に入って、丼ものを注文せずにゆずとはちみつのソーダでカフェ利用・・というのも若干気が引けるが、とはいえこれも立派な商品——しかもイチオシ商品なわけで、文句を言われる筋合いはないだろう。
ちなみに、この「ゆずネードスカッシュ」は、5月14日から販売を開始された期間限定の商品である。高知県産ゆずの果汁とゆず皮、ゆずペーストを使用したシャーベットを、ソーダと混ぜ合わせながら味わう”なか卯”のオリジナルドリンク(プレスリリースより)。ゆず本来のフルーティーな甘みと、ゆず皮のほろ苦さ、はちみつの濃厚な風味がソーダと調和した、初夏にぴったりの爽やかな味わいが売り——とのこと。
念のため補足しておくと、わたしは特段ゆずが好きなわけではないし、炭酸飲料は年に数回しか飲まないわけで、なぜ「ゆずネードスカッシュ」のポスターを見るなりフラッと店へ吸い込まれたのかは、自分でもわからない。
ただなんとなく喉が渇いていたことと、爽やかな柑橘系の飲み物に魅力を感じたことで、思わず食券をタッチしてしまったのだ。
そして待つこと数分、「親子丼の店で丼ものを頼まずに、一杯のドリンクだけを注文する変わった日本人もいるもんだ」という表情をした、東南アジア系の店員からゆずネードスカッシュを受け取ると、そそくさと店を後にした。
味はまさに”ゆずとはちみつとソーダ”(当たり前)で、強炭酸ではないことから刺激に弱いわたしでもごくごく飲める。なにより、細かく刻んだゆずの皮の噛み応えが、既製品のドリンクとは一線を画すプライドのようなものを、小さくも確実に主張しているのを感じた。
(氷がデカいのがアレだが、まぁ美味いから良しとするか・・)
ゴロゴロと存在感を示す四角い氷に文句をつけながらも、まるでコンビニのフラッペ用ストローほどある太さのストローで、残り僅かとなったゆずネードスカッシュをズルズルと吸い込んでいたところ、液体だけを飲み干してしまい、ゆずの皮がカップの底に溜まってしまった。
ラーメンでもゆずネードスカッシュでも、残り物にこそ福がある。容器の底にたまった残骸には各種エキスが凝縮されており、それらを漁って味わうことで幸せを感じるわたしは、ここぞとばかりに勢いよくゆずの皮を吸い込んだ——その瞬間、極太のストローにて高速で吸い上げられたゆずの皮の細片が、危うく気道へ突入しかけたのだ。
(ブホッ!!・・・あっぶねー、大惨事になるところだった)
だが、むせない程度に加減しながら吸ったのでは、ゆずの皮は持ち上がらない。このストローがもっと細ければ、少ない吸引力でも吸い上げることは可能だが、そうなると、ストローの内径よりも大きいサイズのゆずの皮は物理的に吸い上げることができない。
かといって、底にたまった残骸にこそ旨味とロマンがあるわけで、それをみすみす手放すわけにはいかない——。
とにかく、勢いよく吸わなければゆずの皮を口へと運ぶことはできないため、人智を超えた解決策を期待してChatGPTに尋ねてみた。すると、
「吸い切らずに止めるテクニックが必要です。そのためには、勢いよく吸わず『じわーっ』と中間くらいの吸引圧でコントロールします。『吸う』ではなく『引き寄せる』イメージ。そして、ゆずの皮がストローの中を上がってくる感触がしたら、口の中に入り切る前に一瞬止めると安全です。」
という、とんでもないテクニックを要求してきたのだ。じわーっと程度の吸引圧では、ゆずの皮は上がってこないし、口の中に入りきる前に一瞬止めるには、高速で吸い上げる瞬間のさらに一瞬を把握しなければならず、そんな神業は到底無理である。
(こうなったらイチかバチかで吸い込むしかない・・)
*
こうしてわたしは、ゆずの皮が気道に入ったり鼻腔に逆流したりする可能性を受け入れると、再び勢いよくストローを吸い上げた。
だが願わくば、もう少しだけストローの内径を小さくしてもらえれば・・と、親子丼すら注文しない分際で、生意気な意見が頭をよぎるのであった。
コメントを残す