果物といえば「繊細」というイメージがあるだろう。
パイナップルのように、ゴツゴツとした分厚い皮をまとった奴らもいるが、皮ごと食べられる果物においては、当然ながら薄くて傷つきやすいものがほとんど。
そんな繊細な果物のなかでも、果皮が「薄くて硬い」で有名といえば栗が挙げられる。
「栗は野菜だろ!」
と思った諸君、残念ながらブッブーである。
農林水産省が定める基準によると、栗は果物として分類されている。逆に、メロンやイチゴが野菜となるので、分かりにくい分類基準ではあるが。
ちなみに黄色いホクホクとした栗の可食部、あれはじつは「種子」なのだ。ではいったいどこが果実なのかというと、トゲトゲのイガの下にある、硬いこげ茶色の皮(鬼皮)こそが、果肉に当たる部分となる。
つまり我々は、栗の種を「美味い美味い」と貪り食っているわけだ。
さらに栗を誤って落としたとしても、まったく問題はない。むしろ、食べる際に苦労して鬼皮を剥かなければならないわけで、歯でかじりつくなどかなりの労力を要する。
まぁ栗は極端な例だが、いわゆる「果皮が硬くてじょうぶな果物」というのは、基本的には果皮を食べない。パイナップルを筆頭にメロンやグレープフルーツといった、立派な皮をまとった果物は皮を残して中身だけ食べる。
だがこれにも例外はある。その例外を今日、わたしは身をもって知ることができた。
その正体は「柿」である。
季節柄、スーパーの果物エリアがカラフルに賑わう昨今。
断トツの存在感を放つ王者・シャインマスカットの鮮やかな黄緑色にはじまり、濃い紫色で妖艶な雰囲気を醸すピオーネ。それらの隣りには、庶民的で落ち着きのあるオレンジ色の柿が陳列されていた。
高級ブドウの隣りを陣取った柿は、値段もかなりお手頃に感じるわけで、そのマジックに引っかかったわたしは大量の柿を購入したのである。
帰宅してレジ袋から柿を取り出していると、柿の一つが転がり落ちてしまった。
(うわっ、しまった!)
大理石(?)の硬い床に垂直落下した柿は、ゴンゴンという鈍い音を立てながら数回バウンドすると、ゴロゴロと転がっておとなしくなった。
(デカい柿を買ったから、ダメージもデカいだろうな・・)
地面に落ちた瞬間の衝撃で、柿の一部が凹んでいる。さらに数回バウンドしたことで、皮の表面にも傷がついてしまった。
外見でこれだけのダメージが確認できるということは、中身もそれなりに黒ずんだり、やわらかくなったりしていることだろう――。
せっかく奮発して大きな柿を買ったというのに、食べる前に己で痛めつけてしまったのでは話にならない。
とはいえ、注意力が散漫になったわたしの責任。甘んじて受け入れよう。
そんな妄想を抱きながら、床にドテンと落ちている柿を拾い上げた。
(・・・え!!!)
なんと、柿はどこも傷ついていない。粗探しをするかのように、あちこち至る所をにらみつけても、傷一つ見当たらない。無論、凹みなどあるはずもなかった。
――そう、胸の高さから真っ逆さまに床へ叩きつけられた柿は、まったくの無傷でカムバックしたのだ!
言われてみれば、柿の皮はやや硬い。とはいえ問題なく咀嚼できるので、皮ごと丸かじりできる優秀な果物である。
同じく皮ごと食べられる果物といえば、リンゴやナシ、モモ、ブドウなどが挙げられるが、いずれも果皮は柔らかい。少なくとも、柿ほど硬い皮の果物はないだろう。
(庶民的でありながら、実用的で堅固な果皮をまとう”使える果物”こと柿。過度な装備などなくとも、全身全霊でその価値を示しているわけで、これはまさに果物界のレンジャー隊員というわけか!)
わたしは誇らしげに柿を撫でると、キュッキュと水洗いして丸ごと平らげた。
落下事故というとんだ災難に見舞われた柿だが、適度な甘みとしっかりとした歯ごたえは健在。
期待どおりに、わたしの胃袋を満たしてくれたのであった。
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