働かない蜂

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「働き蜂の法則」というのを聞いたことがあるだろうか。働き蜂の2割はよく働き、6割は普通に働き、残りの2割は怠けるというもの。人間の社会でも似たようなことがいえるわけで、組織に属する全員がフルフルで働いているわけではない。上手くやっているフリをしていたり、フリではなく本当に仕事を放棄して逃げたり、むしろ人間のほうが面白いサンプルが取れる気がする。

 

この働き蜂の法則が頭をよぎる中、「リアル働き蜂の巣」を見る機会を得た。場所は練馬にあるいちご農園。受粉の請負人であるミツバチを購入し、たくさんのいちごを実らせてくれるよう彼らの働きぶりに期待をする社長。

しかし、段ボールでできた「コロニー」に滞在するミツバチたちは、蜂の巣をモゾモゾするだけで、一向に働きに出ようとはしない。

「ぜんぜん働かないんだよねー」

苦笑いの社長。そりゃそうだ、金を払ってまでミツバチ御一行様を購入したのに、コロニーの居心地がいいからと誰一人仕事に行かないのだから、怒りを通り越して笑うしかないのだろう。

 

働き蜂の法則でいえば、少なくとも2割は積極的にビニールハウス内を飛び回り、訪花を繰り返すことで受粉を行うはず。それが一匹たりとも営業に出ようとしないわけで、怠けるにもほどがある。

ましてや言葉の通じないミツバチ、どう懇願しようが説教しようが叱咤激励しようが、この状況を打破できるとは思えない。

 

 

広大なビニールハウスを見渡すと何種類かのいちごの葉と茎、まれに赤く色づくいちごが見える。そしていちごの頭上には、大きな扇風機がゆっくりと回転しながら対流を作っている。

ハウスの片隅では温度、湿度、二酸化炭素、日光などなど、さまざまなデータを計測し逐一チェックを行っている。それらデータから知る異常や変化もさることながら、人間の経験や感覚に基づく「異変」というものもあるらしい。

 

そんな話を聞くうちに、いちご農家というものは思っている以上にシビアで、広い視野と想像力、そして化学式を理解していなければ務まらない仕事なのだと思い知る。

(少なくともわたしには無理だ。おいしくいただく側の人間でいよう)

いちご農家への道をアッサリ断念したわたしは、ふと何か黒い物体がビニールハウス内を飛行していることに気がついた。アブ?ハエにしてはデカすぎる――。

 

「もう少し飛ばそうかな」

そう言いながら社長は、さっきのミツバチとは別の段ボール箱のほうへと近づいた。段ボールの側面には小窓がついており、横へスライドさせると中からゴソゴソと黒いハチが飛び出してきた。

「刺さないから大丈夫ですよ」

その正体はクロマルハナバチだった。見た目はクマバチのようで、フサフサした毛が生えている。その姿を間近で見たわたしは、一瞬たじろいだ。

蜘蛛嫌いで有名なわたしだが、蜘蛛のなかでもモコモコの毛で覆われているタランチュラなど、ネットで画像を見るだけでも鳥肌が立つ。にもかかわらず、目の前に毛の生えたモコモコのハチが飛んでいるわけで、身構えないはずがない。

 

だが緊張感あふれる私を尻目に、クロマルハナバチらは各々自由に飛び立って行った。

 

(そうか!彼らは出勤したのだ。先ほどのミツバチなど全員がニートだったが、こちらのクロマルハナバチは一目散に仕事に向かったわけか。なんなんだこの違いは!)

 

生まれて初めて出会う、勤勉家のクロマルハナバチに尊敬の念を抱きながら、彼らの行き先を眺める。みんな上空を浮遊しており、気持ちがよさそうだ。

――あれ?受粉っていちごの花に接触しなければ意味ないんじゃ・・・

 

まぁ出勤しただけでも良しとしよう。あちらのミツバチなど出勤すら拒否したのだから、それに比べれば仕事へ向かう姿勢を見せただけ、クロマルハナバチのほうが偉い。

 

なお、ハチの名誉のために補足するが、ハチにもハチなりの働くタイミングや仕事に対するモチベーションがある。よって、あのミツバチらが職務怠慢なわけではない(ことを願う)。

 

サムネイル by 希鳳

 

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