せんざい能力の開花

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私は今日、ゴキブリになった。

ゴキブリというのはなぜか忌み嫌われる存在だが、あいつらは全てが驚異の蓄積で出来上がっている。そもそも2億5千年前には存在していたとされるゴキブリ。人間などおよそ700万年前にそれらしき姿のものが登場し、日本列島で人類の痕跡が見つかったのが10万年前。有史時代から数えればまだ1700年程度の歴史しか辿っていない我々に比べると、ゴキブリは信じられないほど長い歴史を刻んできたわけで、尊敬すべき存在といえる。

 

ゴキブリの特徴として、動きが無作為に俊敏かつ生物の中で最も雑食という点が挙げられる。奴らが動くスピードは、なんと時速に換算すると300キロメートル以上となり、新幹線よりも速いのだ。

一秒間で体長の50倍もの距離を移動できる身体能力ゆえ、人間ごときがゴキブリを叩き潰そうとしたって当たるはずもない(参考/アース製薬「害虫なるほど知恵袋」)。

 

そして食い物といえば「なんでも食う」で片付けられる。人間の食糧は当然のこと、壁紙や本の表紙、仲間の糞、髪の毛、最悪の場合は共食いをも辞さない。わずか一滴でも水があれば3日は生きられる、そこへ油が一滴あれば5日は生きられるのが、ゴキブリの生命力の真骨頂だろう(参考/アース製薬「害虫なるほど知恵袋」)。

 

そういえば昔、ゴキブリに向かってパーツクリーナーを噴射したことがある。その場にあったスプレー系がそれしかなかっただけのことだが、驚くべきことにみるみる衰弱していったのだ。他にも様々な液体やスプレーを浴びせかけたことがあるがどれもイマイチ。しかしパーツクリーナーと液体洗剤だけは効果テキメンだった。

――これにはちゃんとした理由がある。

 

ゴキブリには肺がないため、肺呼吸はできない。その代わりに「気門」という呼吸するための穴が腹の横に複数存在し、そこから空気を取り込んで呼吸をしている。液体洗剤を浴びせて絶命した理由は、洗剤の成分である「界面活性剤」により、ゴキブリの体表面を覆っていた油が溶けて流れ出た結果、気門を塞いでしまい窒息死したのだと思われる。

パーツクリーナーも金属パーツの洗浄剤であり、脱脂にも優れた効果を発揮することから、体表面の油が流れ落ちて気門を塞ぎ、同じく窒息死という最期を遂げたのだろう。

 

このことから、ゴキブリの唯一の弱点は「気門」にあるといえる。のろまで臆病な人間が、俊敏で強靭な生命力を持つゴキブリに打ち勝つにためには、相手の弱点である気門を塞ぐに限るのだ。

 

 

人間よりもはるか昔からこの世に存在していた大先輩にもかかわらず、なぜか人間から極度に嫌われるゴキブリ。アース製薬は「ゴキブリとの戦いは、アース製薬の歴史でもある」とまで断言しているわけで。

 

そんなゴキブリが、今日、私に憑依した。ブラジリアン柔術というスポーツが趣味の私だが、練習の途中で急にゴキブリが降臨したのだ。ある動きを手本として見せてもらった後に、私が真似をしてやってみたその動きこそが、ゴキブリそのものだった。

手本を示してくれた人物の動きとはかなり違う、異様な動きを再現した私に対して、周囲で見守っていた人々は穏やかな表情で目を細めた。

 

手本どおりに動いたつもりの私は、初動の時点でゴキブリを無意識に意識した。横へ回る動きの最中に、効果音である「カサカサ」という音がどこからともなく湧きおこる。そして最後はピタッと静止することで動きを終えた。まるで人間とバッタリ出くわしたゴキブリのように――。

 

(そうか、ゴキブリでいいのか!)

 

人間の動きには限界がある。だがゴキブリの動きを取り入れれば、その範囲は無限に広がる。ゴキブリが非常に優秀でタフな生き物であることは、歴史から見ても間違いない。

 

私は今後、己の強化のためにもゴキブリの要素を追及しようと決めたのであった。

 

サムネイル by 希鳳

 

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