代表(者)取締役

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新年早々、取材のお電話をいただく。

「社労士のURABE先生でしょうか?取材のお願いをしたく、お電話差し上げました」

20代後半と思しき男性から、突然の着信があった。そもそも「電話に出ない」で有名なわたしだが、まれに思い当たる節があると通話ボタンを押す。とくに今は、電子申請した届出についての確認の可能性があるため、役所系の番号の着信は出ることにしている。

どうしたら「役所からの着信」だとわかるのかって?そりゃ、長年の経験てやつだ。

 

だがほとんどの場合がこういった営業系の電話なので、不要不急な内容だと判断した時点で、わたしはタイマーをスタートさせる。

(さて、今回も何分何秒の無駄な時間を強要されるのかな)

そんなことを思いながら、相手の話がひと段落つくまでタイマーをにらみつけるのであった。

 

とはいえ向こうも仕事だ。相手の社労士がどんな人物なのかを調べながら架電していたら、それこそ効率が悪い。とりあえずは片っ端からかけてみて、100件に1件くらい引っかかったらラッキーといったところだろう。

この確率でいくと、営業担当は99回の嫌な思いをすることになる。わたしのようにとりあえずは言い分を聞いてくれる相手ならまだしも、営業だとわかった瞬間に電話を切られることだって多々あるだろう。

いや、もしかするとその方がお互いのためなのかもしれない。

(――コイツはダメ、と)

といった感じでリストを作成しているだろうから、無駄に1分トークするくらいなら瞬殺された方が時短にもなる。

 

営業電話への対応について、わたしにまだ人間味があった頃は、このようなやり取りで終わらせていた。

「あ、URABE先生でしょうか、わたくし・・・」

「ただいま電話に出ることができません。メッセージをお願いします」

そしてしばらく無言で聞いていると、メッセージなど残すことなく直ちに電話を切られるという流れ。つまり、どうしても折り返しが必要という案件でもなければ、どうしてもわたしにお願いしたい内容でもないのだ。

わたしじゃなくていいなら、どうぞ他の社労士にお願いしてください。

 

しかしこの「数撃ちゃ当たる作戦」は、営業する側にとってもされる側のためにも、即刻やめたほうがいい。そもそも1%の成功率ならば電話代がもったいない。だったら10人でもいいからターゲットを絞り、人物考察をしたうえで、

「あなたでなければダメなんです!」

という腰を据えたプレゼンをするべきだろう。どうせ一日かけて無駄に架電しまくるくらいなら、その時間を的中率アップのための情報収集や分析に充てる方が効率的なことくらい、中学生の部活レベルで分かること。そしてわたしは必ず、

「なぜわたしに電話してきたの?」

と聞き返す。この続きを答えられた営業は少ないが、「ホームページやSNSを見ました」という殊勝な若者も中にはいる。

「それで、どうしてわたしに頼みたいと思ったの?」

この質問への回答をもらったことは、未だかつて一度もない。全員、黙るかその場しのぎの薄っぺらい言葉を並べるだけで。

もしその先に、タイマーとにらめっこするわたしを目覚めさせるほどの返答があれば、営業担当の漢気を称える意味で、案件に乗ってやるつもりなのだが。

 

とりあえずお互い不毛な時間を繰り返したくないので、わたしは優しくこう教えてあげた。

「わたし、ゴリラが本業だから」

すると相手は驚きつつも、申し訳なさそうに電話を切るのであった。

 

 

仕事繋がりでこんなことがあった。本日依頼を受けた法人は有限会社。登記事項を見ると、何人もの役員が入れ替わり立ち替わり名を連ねたあげく、現在は一人の役員しかいない。

 

最初、話の流れでは「株式会社」と聞いていたのだが、登記をみれば「有限会社」ということで、会社法施行後は独自の形態を維持したまま、株式会社へと存続した法人。だが登記法の変更がなかったため、株式会社とは異なる登記事項が存在するからややこしい。

たとえば、依頼をしてきた社長は「代表取締役」という肩書だったが、実際は「取締役」が正式名称となるのだ。ここが株式会社と有限会社との登記事項における違いの一つだが、株式会社は

「取締役が一人の場合、代表取締役として登記される」

のに対して、有限会社は

「取締役が一人の場合、代表取締役は登記されない」

というルールがある。つまりこの社長は、取締役一人の会社の役員のため、肩書は「取締役」というのが正式名称で、「代表取締役」は誤った肩書となる。とはいえ通常、会社の代表なのだから代表取締役と捉えられるし、対外的にもそれが普通だろう。

 

これについて弁護士の友人に相談したところ、

「裁判の場合は『代表者取締役』となるよ」

と教えてくれた。このあたり本当に「お役所仕事だな」と感心する。取締役では代表者かどうかの判断かつかない、かといって代表取締役は株式会社の用語、では間をとって代表者取締役でいいじゃないか――。

 

しかし登記情報を元に申請業務を行う場合、社長の肩書を「取締役」にしておくと、有限会社の仕組みを知らない行政担当者は返戻してくる可能性がある。

「代表者の名前で、提出代行証明書を作成し直してください」

おぉ、なんだこの既視感は。そしてこの説明をする無駄を考えると、はじめから代表取締役という肩書で作成するのが無難とも思える。だが登記事項と照らし合わせた際に代表取締役は不在なわけで、

「代表取締役ではないので、正式な肩書で作成してください」

と言われかねない。おぉおぉ、これまた既視感。かといって「取締役(代表者)」という書き方をして、このカッコがはじかれるフィールドが電子申請画面にあった場合、これまた「提出代行証明書の肩書と違う」などと難くせをつけられないとも限らない。

では裁判と同じく「代表者取締役」とするのはどうか。

「代表取締役の誤りだと思うので、返戻します」

もう完全に既視感しかない。ということで、わたしは電子申請をあきらめて紙の書類で提出することにした。時代に逆行するが、紙ならば多少の間違いはスルーされ、何かあれば電話確認してくれるのが絶対的な強み。その理由は、電子申請がクリック一つで返戻できるのに対し、紙での申請は郵送料が発生するため迂闊に返戻できないからだ。

 

こうして本日も、二以上勤務者の社会保険資格取得手続きを行った。今後間違いなく、二以上勤務者(ダブルワーク、複数企業の常勤役員を兼務など)は増えるだろう。

政府は、二以上勤務者選択届の電子申請対応を、早急に整えてもらいたいものだ。

 

サムネイル by 希鳳

 

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