社労士の仕事をしていると、たまに「謎のルール」に翻弄されることがある。「法律で決まっていることだから」と言われればそれまでだが、なかなか微妙なところを突いてくるケースの場合、そろそろ時代に合わせて法律を見直したほうがいいのではないかと思うこともある。
本日のソレは、雇用保険の被保険者について。社員やアルバイトなど名称に関係なく、労働時間が週20時間以上の人は雇用保険に加入することが義務付けられている。これは本人が望む望まない関係なく、雇用保険に加入させることが事業主の義務だからだ。
現状、雇用保険の被保険者は次の4種類。
・一般被保険者
・高年齢被保険者
・短期雇用特例被保険者
・日雇労働被保険者
しかしこのうち「高年齢被保険者」については、そろそろ見直してもいいのではないかと思う。これは65歳以上の労働者が週20時間以上働く場合、一般の労働者と同じく雇用保険加入となることを指す。
「なんで65歳以上って限定されてるの?」と思われるかもしれないが、実は2017年までは、65歳以上の労働者が要件を満たしていても、雇用保険に加入できなかったのだ(65歳前から継続雇用されている場合を除く)。
しかし時代の流れとともに、「そんな堅苦しいこと言わずに、何歳でも雇用保険に加入できるようにしましょうよ!」ということで、法律が改正されたわけだ。
たしかに定年年齢は上がるわ働き手は減るわで、保険料収入は減る一方。高齢者層を被保険者としなければ、この先の均衡が保てないのだろう。
とはいえ、彼らにとってラッキーなこともある。それは、失業後に受給できる「高年齢求職者給付金」の存在だ。これは、65歳以上の高年齢被保険者が離職した際に、要件を満たせば受給できる給付金のこと。通常の失業給付との違いは、
・一時金
・年金との併給が可能
この2点が挙げられる。「一時金だから損じゃないか!」と思われるかもしれないが、重要なのは2つ目の「年金との併給が可能」という点だ。
通常、65歳未満の老齢年金受給者が失業給付を受給すると、その期間の年金は支給停止となる。しかし高年齢求職者給付金ならば年金が支給停止とならず、両方とも受給できるのだ。
つまり、65歳以上の失業給付=高年齢求職者給付金は、年金との兼ね合いも考えての給付金であり、年金受給者にとったらラッキーな内容といえる。さらに再就職の後に離職した場合も要件を満たせば、再び高年齢求職者給付金がもらえる好条件付き。
とはいえこれからの時代、65歳を超えてもバリバリ働いてもらうための制度改革が行われているわけで、彼らについても「高齢者」なんて分け方をせずに、一般被保険者として扱えばいいのではなかろうか。
おっと、今回の論点はここではなかった。本日考えさせられたのは、短期雇用特例被保険者についてだ。これは、季節的に雇用される者のうち、次のいずれにも該当しない者のことをいう。
・4か月以内の期間を定めて雇用される者
・1週間の所定労働時間が30時間未満である者
農林水産業やスキー場、海の家といった自然相手の職業は、一年中労働者が必要というわけではない。もちろん、作物の育て方や仕事の在り方によっては通年で雇用を維持できる場合もあるが、個人経営や零細企業ではそうもいかないわけで。
農業を営む顧問先で一名、週所定労働時間が20時間の労働者が現れた。しかし雇用期間が5か月なのだ。
短期雇用特例被保険者の要件でいくと、「4か月以内の期間」というところではじかれる。ならば「一般被保険者でいいのではないか?」と思われるかもしれないが、そうもいかない事情がある。
法律上、雇用保険の被保険者とならない者という要件が列挙されており、その中に、季節的に雇用される者であって、以下のいずれかに該当する者として、
・4か月以内の期間を定めて雇用される者
・1週間の所定労働時間が30時間未満の者
とあるのだ。短期雇用特例被保険者の要件は「いずれにも」だったのに対し、こちらの除外要件は「いずれかに」となっており、顧問先の労働者は「週20時間」ということで後者に該当してしまうのだ。
うぅむ。こればかりはどうしようもない。労働時間を30時間以上にすれば、短期雇用特例被保険者として雇用保険に加入できるが、そこは契約の時点で無理であることが決定している。
「季節的な業務」だけで考えると、この要件は理解できるし問題はない。しかし昨今、ダブルワークやトリプルワークを推進するなかで、季節的な業務に従事しない期間に、他のアルバイトに就く可能性だって十分に考えられる。そうなると、
「コンビニのバイトでは雇用保険加入していたのに、農業に戻ったら加入できないせいで、給付が受けられない!」
なんてクレームがあってもおかしくはないだろう。
まぁ一個人が騒いだところで何も変わらないわけで、お上には末端のケアまで考えてもらいたいものだ、と思うのであった。
サムネイル by 希鳳
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