美人獲得大使

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「あの、もしよければまつ毛のクリニックを紹介していただきたいのですが」

控え目な口調で友人が話しかける。まつ毛のクリニックとは、グラッシュビスタを処方してくれる眼科のことだ。例外なくまつ毛がフサフサもしくはバサバサになる、最強のまつ毛発毛剤。この話を、かつてわたしがナンパした友人から聞きつけ、あっせん元であるわたしを訪ねてきたのだ。

ナンパというのは、わたしのほうから

「まつ毛増やしたくない?」

と声をかけてその気にさせグラッシュビスタを購入させているので、ほぼ「ナンパ」といえるからだ。

 

ちなみにわたしが「この話」を持ちかける友人は限られている。まつ毛が濃くなることで美しさが増すであろう美人にだけ、声掛けを行っている。

もちろん、すでに十分なまつ毛を持つ人にわざわざ近寄ったりはしない。だがまつ毛が薄い、あるいは少ない美人に対しては、わたしのほうからこの「儲け話」を持ちかけることにしている。

理由は簡単。この世に美人が増えてほしいし、女性の顔を見るならばブスより美人がいいからだ。

 

とはいえ、美人でまつ毛が薄ければ誰でもナンパするわけではない。グラッシュビスタは眼科で処方されるが、およそ2万円と決して安い買い物ではない。そのため、医薬品とはいえ美容の端くれにそこまで金をかけられない環境の人には、あえて勧めることはしない。

目薬一本2万円は、効果を信用できない人にとっては単なる詐欺商法にしか感じられないだろう。いくらわたしのまつ毛がフサフサしているからといって、そんなの元からじゃないの?と思われればそれまでだ。

 

よく「まつ毛育毛剤」や「まつ毛美容液」なるもので、まつ毛の発育を促進すると謳っている商品を目にする。安いもので1,000円前後から高いと6,000円程度まで種類も様々。これらが全く効果がないとは言わないが、所詮、気休め程度にしかならないということは、ハッキリ言わせてもらう。

グラッシュビスタは医療用に開発された薬なので、医師の診察が必要。そして確実な効果は医薬品でしか実感できないと断言できる。反応のいい人ならば一日目でまつ毛の変化に気づくほど、明らかな効果があるからだ。

 

逆にいうと、6,000円のまつ毛美容液を何か月も使い続けるくらいならば、2万円で3か月弱使用できるグラッシュビスタを買ったほうが断然お得。

もはや悪口になるが、市販品で絶大な効果が出るならば医薬品の価値などない。製薬会社はとっくにつぶれているし、薬剤師もお役御免だろう。

 

というわけで美人を詐欺から救済するためにも、そして確実に美人を増やし維持するためにも、わたし自らが特命全権大使となり地道にドブ板営業を行っているのだ。

 

そんな中、まだ声をかけなくてもいいかな?と思っていた友人から逆ナンされたというわけだ。当然ながら悪い気はしないので、早速アポを取り診察へと漕ぎつける。すると友人はこう尋ねた。

「お手間を取らせてすみません。なにかお礼とかしなくてもいいんですか?」

この質問は衝撃的だった。もちろんお礼ならば手作りのおにぎりが嬉しい。だがそんなことより、キミがさらに美しくなることのほうが重要だ。この世に美人を増やすこと、維持することこそがわたしの喜びであり生きがいなのだから!

 

持続可能な社会とか、環境にやさしいなんちゃらとか、我々が実感しにくい目標が最近の流行りのようだが、そんな遠い目標より身近で達成可能な目標をクリアすることのほうが、わたしにとったらよっぽど重要。

美人でデブならば徹底的に痩せさせる。美人でスタイルが良ければすぐさまベストボディーにエントリーさせる。美人でまつ毛が薄ければグラッシュビスタを丁寧に売りつける。

こうすることで、この世の美人率が上がり誰もが喜ぶ状況となる。何十年後を見据えてとかではない、今すぐ変化を実感できることこそが重要なのだ。

 

まつ毛の薄い美人よ、騙されたと思ってわたしに接触しなさい。一週間でフサフサまつ毛を体感させてあげるから!

 

サムネイル by 希鳳

 

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