白 雨ヨ 女臣

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最近、料理にハマっているわたしは、今日も電子レンジを使ってリンゴを調理した。

電子レンジと聞くと加熱のイメージが強いが、料理上手のわたしからするとレンジの機能で最も役に立つのはオーブンだ。偉そうに言うわりには、オーブンとトースターの違いがイマイチ分からないレベルではあるが、オーブンのほうが「料理ができる人」という感じがするので、率先して使っている。

 

いつも通り、リンゴを洗うことなくそのまま回転網に乗せると、デフォルトの180度で30分を選択しスタート。

ところで、オーブンの残念な点といえば時間がかかることだろう。「あたため」ならば数分程度で済むところを、オーブンの場合は数十分単位で事が進むため、待ち時間という空白を乗り越えなければならない。

孤独を嫌うわたしは電子レンジの前に立ち、リンゴがどのように変化していくのかを見守ることにした。

 

――10分経過。

リンゴに変化は訪れない。焦げ目がつくのかな?と興味津々で見つめるも、焦げ目どころか色の変化すら確認できない。ただひたすらゆっくりと回されるリンゴ。

(熱くないのかな?)

不謹慎な話だが、もしも何らかの生物がリンゴのポジションにいたら、変化がないはずはないだろう。それがリンゴやサツマイモだと加熱前の姿を維持したまま、静かにクルクル回っているのだから不思議だ。

 

――30分経過。

やはり見た目の変化が乏しい。思い切ってもう30分いっとくか。

 

――60分経過。

寝落ちしそうになっていたところを、電子レンジのピーピー音で目を覚ます。そうだ、リンゴを焼いていたんだ。

 

出来上がった焼きリンゴは、残念ながら外見の変化はイマイチ見られない。若干茶色くなり、しなっとした感じは見受けられるが、60分も焼き上げたにもかかわらずこれっぽっちの変化なのか!と逆に失望する。

それでもわたしは、アップルパイに乗っているあのしなしなのリンゴのイメージで頭がいっぱいのため、さっそく電子レンジからリンゴを取り出すとテーブルに置いて冷ますことにした。

 

猫舌のわたしはこういった加熱直後の食べ物をすぐには食べられないため、ごちそうを目の前にしたおあずけ状態の犬となる。我慢できずに一口かじると拷問級の熱さで舌をやけどし、その後のごちそうにありつけなくなることを、経験則として知っているからだ。

10分ほど待ったところでおもむろにリンゴへかじりつく。想像以上に皮がしっかりしていて硬い。この皮の歯ごたえは火あぶりにしなければ出ないであろうテクスチャーだ。おかげで、そう簡単には中身へとたどり着けない。

恐る恐る前歯を突き立てて硬い皮を突破すると、そこにはジューシーかつ生温かい果肉が潜んでいた。まさにアップルパイの上に寝そべるしなしなのアレだ。

 

しっとりした果肉をモシャモシャと食い進み、ようやく芯の辺りまできた。生リンゴの場合、芯の周辺は甘みも消え、そもそも「芯は食べない」という常識的観点から、中心部分はゴミ箱へ放り投げて終わりだろう。

しかし焼きリンゴは芯までしっかり火が通っているため、どこからが芯なのかわからない。よって、そのまま勢いよく食い進んだ。

 

やや歯ごたえのある何かを噛んだ、――リンゴの種だ。生リンゴの種ならば、スイカの種のような大きさと歯ごたえのため、こんなものを食べようとする人間がいたらお目にかかりたいくらい。

しかし焼きリンゴの場合、そんな種にまで火が通っているため、大きさも半分に縮んでおり歯ごたえはメロンの種ほどのやわらかさ。

(イケるんじゃないか?)

所詮、相手は果物の種。味はマズイしわざわざ食べるものではないが、食べたところで腸を通過し排出されるだけ。むしろ種まで食べればゴミが一切出ないじゃないか!

 

これは今はやりの「ゼロウェイスト」というやつを実践することになるわけで、わたしは環境にやさしい人間として尊敬される立場になる――。

そう考えたわたしは咬筋に力を入れ、より軽快にリンゴとリンゴの種を貪り食った。

 

ついでにリンゴのつるまで食べきったわたしは、念のためネットで「リンゴの種を食べること」について調べてみた。すると驚愕の事実が飛び込んできたのだ。

単刀直入にいうと、リンゴの種には毒が含まれている。

少量だがアミグダリンという物質が含まれており、体内で加水分解されるとシアン化合物が生成される。シアンは「青酸」を意味し、中毒となると死に至る可能性のある猛毒だ。

無論、リンゴ数個の種を食べた程度ではなんの変化も起きない。たとえば一気に数百個分の種を食べたら何らかの症状が現れるだろうが、さすがに現実的ではない。

 

と、ここで気がついたことがある。グリム童話やディズニーアニメでおなじみの「白雪姫」で、毒リンゴを食べた白雪姫は倒れて眠りにつく。幼少期、この話を聞いたわたしは、

「なーにが毒リンゴだ。そんなリンゴありえない!」

と、子どもながらに小バカにしていた。だが今、その裏側というか真実が明らかになったのだ。グリム兄弟はリンゴの種に毒の成分が含まれていることを当時から知っていた。そしてその伏線を張りつつ、毒リンゴという果物を登場させたのだ。

 

(なんという奥深さ・・・)

 

白雪姫ばりに毒リンゴを食したにもかかわらず、眠りにつくことなくこうしてパソコンと向かい合っているわたし。体調は良好だ。

あれは多分、美人でなければ倒れない設定なのだろう。

 

サムネイル by 希鳳

 

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