「この時期は柿やミカンを食べすぎて、手が黄色くなるんだよね」
友人の発言に、飲んでいたコーヒーを吹き出した。子どもじゃあるまいし、何をいまさら!
「ちなみにカボチャもめっちゃ食べたから、さらに黄色くなったんだろうね。でも本当に手が黄色くなりすぎて悩んでたんだよ」
よりによってカボチャを大量に食べるとは、どんな偶然の巡りあわせだ。
「おかげで危うく病院行くところだったからね、奇病じゃないかと不安になって。まぁそのせいで旦那からはバカ扱いされたけど」
むしろこの際、病院へ行ってほしかった。手が黄色くなる奇病を疑い受診――そんな実績、わたしもほしいくらいだ。ちなみに旦那からはどのようなアドバイスを受けたのだろうか。
「最近は柿も食べてるから気を付けろ、と」
シュールすぎる。友人夫妻は真面目で素朴、人生で笑いをとるような行為は求めないし好まないはず。つまり二人は神妙な面持ちでそんな会話を交わしたに違いない。
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子どものころ、正月にミカンの食べすぎで手が黄色くなる経験は誰しもがあるだろう。わたしもかつて、黄色人種にしては黄色すぎる自分の手を見て不審に思った記憶がある。だが親に話したところ、
「ミカンを食べすぎるとそうなるんだよ」
と言われてなんとなく納得したわけだ。ちなみに、手が黄色くなる理屈はこうだ。
みかんには、β-カロチンなどと同じカロテノイド色素の一種である黄色のβ-クリプトキサンチンが豊富に含まれています。このβ-クリプトキサンチンは皮下の脂肪組織などに蓄積されるので、多量に摂取することで手のひらや足の裏などが黄色くなることがあるのです(ウェザーニュース「みかんを食べると、なぜ手のひらが黄色くなるの?」より引用)
ミカンのほかにも柿やカボチャ、パプリカ、トウモロコシなど黄色い果物や野菜を大量に食べると、手足が黄色くなる可能性がある。
一応、病名というか症状を表す名称がついており「柑皮症(かんぴしょう)」というらしい。決して「奇病」ではないからご安心あれ。
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友人は続けてこう自論を展開した。
「ミカンの皮をむいたときの『しぶき』が、手全体に付着しているという認識だったんだよね」
そんなわけねーだろー!!と突っ込みたい気持ちを抑え、なるほどと理解を示す。
「手が黄色くなるのを防ぐために、ティッシュで包んで皮をむくという対策まで立てたからね」
どことなく得意げな友人。さすがにここまでくると「さすが」と言うしかないし、本気で「ミカンの果汁が手を黄色くさせている」と信じていたわけで、そのピュアな気持ちをいつまでも大切にしてほしい。
「とにかく、私は黄色いものが好きなんだと自覚ができてよかった」
締めくくりはこうだ。ものすごい自己完結をしてくれたもんだ。
――そんな数日前の会話を思い出しながら、わたしは今サツマイモを食べている。採れたての新鮮なサツマイモをレンジに放り込み、「オーブン」ボタンを押して60分待てば、ホクホクの焼き芋の出来上がり。
スーパーなどではお目にかかれないほどの、丸々と太った立派なサツマイモをほおばっているところだ。
しかしこのサツマイモは中身が黄色い。これにはβ-クリプトチサンキンは入っていないのだろうか?ミカンの食べすぎで手が黄色くなるのは有名な話だが、サツマイモを食べすぎて手が黄色くなるなどという話は聞いたことがないが、大丈夫なのだろうか?
ふと手を見つめると、やや黄色い感じがしなくもない。
たしかに、わたしほど毎日焼き芋を食べる奴もいないだろう。だがこれには理由がある。じつは先々月、ウーバーイーツで28万円分の食事をしてしまったため、先月からは極貧生活を余儀なくされたのだ。
そのため、人様からいただく食料や、安価で購入できるサツマイモに頼るしかないのが現状。
とはいえ貧乏というのは、それまで気づかなかったことを知るチャンスでもある。中でも「サツマイモは美味いし飽きない」という事実は、貧乏になり毎日食べ続けて初めて分かるものだ。
最近は、もらい物のミカンも一緒にオーブンで焼いて食べている。この2つの食材の特筆すべき点は、両方とも手を加えることなく丸ごと放り込むだけで完成するので、手軽な上に失敗しないという素晴らしさだ。
まぁこういう事情もあり、かくいうわたしも「黄色い食べ物」を毎日摂取している。結果として黄色くなったとしてもやむを得ないし、そもそも黄色人種なのだから黄色さが増したところで騒ぐ必要もない。
むしろ、紫色の食材を食べて手足が紫色になることを思えば、ビタミンカラーの黄色のほうがよっぽど健康的だろう。
サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)
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