疼く指  URABE/著

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今日オレは派手な衝突事故を起こした。正確にはオレが起こしたわけではない、オレの主が勝手に衝突したのだ。コイツはどうも落ち着きがないというか、周囲を確認せずに突っ込むクセがあるので、前々から用心していたがとうとうやっちまったのさ。

相手も勢いよく向かってきたから、衝突の衝撃はかなりあった。とはいえ、いくらでも避けられたのに主は猪突猛進タイプゆえ、そのまま突進して行ったんだ。その結果オレは勢いよくグサッと突っ込んで、反れることなく真っすぐ奥へと沈んでいったわけだ。

 

おっと、自己紹介が遅れたな。オレは右手の親指だ。サムズアップという言葉があるくらい、指の中でも特別な存在として位置づけられているから、オレを知らない奴はいないだろう。

 

その後のオレは他の指らと一緒に束ねられ、フック船長の左手バリに「フック」させられている。だがこうして指同士でくっ付いてると、振動が少ないためオレの痛みは和らぐ。

ところが、主がパソコンのキーボードを叩くとき、オレの隣りの「人差し指」が動くとやっかいなことになる。

オレは必死に人さし指へ密着するが、コイツが連続で使われたりすると、オレの存在が邪魔になるらしい。人差し指はあえて何も言わないが、完全に「ウザい」という雰囲気を出してきやがる。

空気の読めるオレはそれを察知し、これ以上ウザがられないためにも、人さし指から離れて自立せざるを得なくなる。もちろん、激しくタイピングされると振動がモロに伝わってきて痛い。だがウザがられてまで人さし指に張り付いていられるほど、オレはKYでもなければ強靭なメンタルも持ち合わせていない。

こうして主がカタカタと作業を続ける間、オレは痛みと戦いながら、再び人さし指とくっ付ける時が来るのを待つしかなかった。

 

そして最もやっかいな事態と言えば、主がペットボトルのフタを開ける時だ。右手でフタを捻ろうとすれば、オレは怪我人なわけで戦力外となる。そのため小指側で握って開けるしかない。しかし未開封のフタは握力を必要とするため、小指側では滑ってしまう。それでも力強く握ると、オレのほうにも影響が出る。

そんなわけで左手で開けるしかないのだが、この場合、右手でペットボトルを支えることとなり、いずれにせよオレに悪影響が出るのだ。そもそもオレが戦力外である以上、ペットボトルを握ることはできない。そのため手のひらにペットボトルの底を当てて、4本の指で支えてみる。だがどう考えてもフタをねじ切れるほどしっかりと支えることなどできないわけで、ちょっとずつ滑っていく。

それを見た主はしかたなく、太ももの間に挟んでフタを開けようと試みる。だがジーパンで滑ってクルクル回ってしまう。イライラが爆発しそうな主は、とうとう見ず知らずの人間を呼び止めてフタを開けさせた。

(それが可能ならば、全部そうしてくれよ…)

 

そんなオレは普段から無意識に使われることが多い。たとえば歯ブラシを使う時などオレの出番だ。もちろんグーで握れば話は別だが、一般的には指先でつまむようにして歯ブラシを持つだろう。そしてどんなつまみ方でも、最終的に支えとなるのはこのオレだ。つまり、オレが戦線離脱している間は、歯ブラシをまともに持つことができない状況が続く。

両利きの主は仕方なく左手で歯磨きをしているが、隅々まで磨ききるにはオレがいなければ無理だ。こんなとき、主にとっては不本意だろうがオレの存在価値が明らかになるわけで、悪い気はしない。

 

そんなこんなで靴下を履くとき、トイレでズボンを上げるとき、痛みに悶えながらもオレを酷使する主よ、今後はこれに懲りて猪突猛進は控えるように心改めてもらいたいものだ。

 

サムネイル by 希鳳

 

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