いよいよ3月に突入・・ということで、新年度まで「待ったなし!」の状態に追い込まれてしまった。そんなわけで昨日、顧問先へ「36(サブロク)協定」の締結について一斉に通知を送ったのだが、今回の対応が例年よりも早い裏には”ちょっとしたワケ”がある。
先週、ネットで話題となった労基法関連のニュースといえば「月1時間残業で送検 適正に代表者選出せず 大阪南労基署」という、衝撃的な見出しの事件だろう。
こちらは有料記事のため、定期購読者以外は全文を読むことができないが、どうやら「1時間の残業」という部分ではなく、「有効な36協定がないまま」という部分が問題だった模様。当該サイトの文章を引用させてもらうと、
大阪南労働基準監督署(塩尻公署長)は、有効な36協定がないまま、労働者に1カ月当たり最大1時間の時間外労働をさせたとして、訪問介護事業を営む㈱シクロ(大阪府大阪市)と同社部長、事業場の統括責任者を労働基準法第32条(労働時間)違反の疑いで大阪地検に書類送検した。過半数代表者を適正に選出しておらず、36協定が有効でなかった。
ということで、一カ月にたったの1時間——おそらく、「ある一日」に1時間の残業があったのではなく、日々数分程度の残業が蓄積した結果、トータル1時間に至ったのではないかと予想するが、このような小さな違反で(などと言っては語弊があるが)書類送検されてしまうとは、全国の使用者は戦々恐々としているに違いない。
無論、「週40時間、一日8時間を超えて働かせてはならない」というのが労働基準法(第32条)に定められた決まりであり、使用者はこの範囲内で業務を指示するのが原則ではあるが、「サブロク協定」を締結・届出することで、法定労働時間を超える労働が可能となる。
ちなみに、「サブロク協定はないが、残業代はちゃんと払っているから問題ない!」という屁理屈は通用しない・・ということを忘れないでもらいたい。労基法第32条では、残業代の支払い云々には触れておらず、あくまで「労働時間」についてのみ定められている。そして、労基法第36条では(以下、要旨)、
「労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、労働基準監督署へ届け出た場合においては、その協定で定める範囲内で労働時間を延長し、または休日に労働させることができる」
とあり、残業代すなわち割増賃金を支払ったか否かではなく「サブロク協定を適正に締結・届出をしたか否か」が重要となるわけだ。
その上で、今回の事件について大阪労働局のプレスリリースに目をとおしてみたところ、事件の概要は単純なもので、
「令和5年9月1日から令和6年3月15日までの間、法定の除外事由がないにもかかわらず、被疑会社の労働者1名に対し1週40時間、1日8時間を超えて労働させ、かつ、同期間について、通常の労働時間の賃金の計算額2割5分以上の率で計算した割増賃金を、被疑会社の労働者1名に対し、各所定支払日に支払わなかった疑いがあるものです。」
と記されてあった。
法定の除外事由がない=サブロク協定の締結・届出がない(厳密には、この他にも労働時間に関する規定が適用除外である者や、災害その他避けることのできない場合も法定の除外事由となるが、本件に関してこのケースは当てはまらず)ということになるが、サブロク協定を締結・届出をしていたにもかかわらず、なぜたった1時間の残業で書類送検されてしまったのか——。
その答えが「有効なサブロク協定ではなかった」という部分なのだ。前出の記事によると「過半数代表者を適正に選出しておらず」とあるので、協定締結時に労働者の過半数を代表する者の選出方法が適正ではなかった・・という、まさかの事実が露呈したのだろう。
この、労働者の過半数を代表する者の「適正な選出方法」というのは、いわゆる「民主的な方法か否か」が問われており、前提として「使用者の意向で選ばれていないこと」「管理監督者ではないこと」という条件をクリアしていなければならない。
その上で、民主的な方法・・すなわち、労働者間での話し合いを経て選出したり、候補者を集い投票や挙手で多数決をとったりと、使用者からの指名ではなく「労働者の自由意志」にて選ぶ必要があるわけだ。
よって、「じゃあ〇〇さん、これに署名しておいて!」などと、社長からするとなんら悪気もなく頼んだつもりが、労基署の調査により「この労使協定は有効ではない」と判断されてしまうと、たとえ1分であっても残業が認められれば”労基法違反”となるのである。
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以上のような事情もあり、労働者を代表する者の選出について今まで以上にシビアに確認する必要があることから、例年より早めにサブロク協定の締結を依頼する運びとなったわけだ。
しかしながら、使用者も労働者も一緒になって働いているような小規模の事業所において、サブロク協定の締結のために労働者の代表としてサインをするとなると、ある程度人物が限られてくるのが実情。
もちろん、立候補や自薦という手段は民主的なので問題はないのだが、一方で、自署や押印という行為に抵抗がない者は少ないはず。それらを加味した上で、「学生バイトでは荷が重いだろうから・・」と、自己犠牲の先に労働者の代表が存在するとしたら、それはそれでどうなんだろう——と疑問を抱いてしまうのだ。
昭和の時代のように、「弱い立場である労働者が、己の権利を守るために会社と戦う」というような構図は、令和の今では見られない。むしろ、1分1秒たりとも時間厳守を徹底することのほうが、場合によっては非現実的なケースもあるわけで。
とはいえ、ルールを守ってこそのガバナンスなので、たとえ1時間の残業であってもサブロク協定が未締結・未届出(内容が有効ではないことも含む)という状況は避けなければならない。このようなことからも、労働者を雇用する事業主の皆さん、そして労働者の方々にもサブロク協定の仕組みと役割を理解してもらい、適正な運用への協力を仰ぎたいのである。




















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