「たらい回し」のやり方

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久しぶりに役所相手に喧嘩をした。

頭の中がかゆくなる感覚を、久々に味わった。

 

ーーあぁ、わたしもまだ死んでないんだな。

などと、怒りを通り越して笑ってしまった。

 

 

4月1日、新年度がスタート。

わたしにとって4月1日は、本来ならばこれといって忙しい日ではない。顧問先の各種申請手続きは事前にセットしてあり、4月1日0時を迎えた瞬間にクリックするだけで済む。だからこそ3月の尻叩きはえげつないのだが。

 

しかし顧問先も人間が経営しているため、一律「右へならえ」とはいかない。

今日になって、総勢100名分の労働条件通知書(雇用契約書のようなもので、労基法第15条で書面での明示が義務付けられている)の作成依頼がきた

ーーこんなもん依頼じゃない、強制命令だ。

おかげで、今日一日の予定がすべて吹っ飛んだ。

 

とはいえ予感はしていた。この期に及んで「今年度は昇給なしです」などということがあるだろうか。あるわけがないーー。

 

都合のいい方向へいくはずもないのが人生。顧問先の社員は全員、めでたく昇給。よって、全員分の労働条件通知書を作成することになった。

 

 

本業のかたわら、友人の労働相談に乗っていた。実際は「労働相談」というより「詐欺相談」に近い内容だが、社労士としでできる限りの助言をし、友人のバックアップに努めた。

 

そして満を持した友人は今日、労働基準監督署へ相談に行った。そこで洗いざらい話したところ、

「それは詐欺だから警察へ行ったほうがいい」

と言われたのだそう。その足で警察署へ行き、そこでも事の顛末を説明したのだが、

「事件性もないので相談届は受理できない」

とあっさり追い返された。

 

弁が立つわたしならともかく、年度初日の忙しいときに「つまらぬ相談」をされては、さすがに警察官も付き合いきれないよ、といったところか。また、そういう耳を持って聞いてくれる相手でなければ先へ進むのは難しい。

 

100人の契約書を前に、わたしはスマホに手を伸ばす。

ーーさすがにこれで終わりはダメだろう

友人が相談に行った労働基準監督署へ電話をし、先ほど担当した人を指名する。その人は「相談員」という名の元監督官。定年退職後に今のポジションに再任用されたと思われる。

 

相談員は、

「内容が詐欺ですので、警察を案内しました」

と言った。それに対してわたしが、

「事件性がないということで、追い返されました」

と警察署での経緯を伝えたうえで、監督署が調査に踏み切るには今後どのような行動をとればいいか、助言を求めた。

 

「消費者相談センターとか、法テラスとかへ行けばいいんじゃないですかね」

 

この言葉には、さすがにカチンときた。

「労働基準法違反で、調査をお願いすることはできないんですか?」

努めて冷静に質問する。

「だって、何が違反かわからないじゃないですか」

この辺りで頭がクラクラしてきた。

「例えば、労働条件通知書の交付を再三依頼しても拒否してるんだから、第15条違反になりませんか?」

「給与の支払いに関しても、全額払いに反している可能性ありませんか?24条違反でダメですか?」

 

ーーなぜ考えようとしないのだろう。労働者本人が相談に訪れたにもかかわらず、アドバイスの内容は結局のところ「たらい回し」ではないか。

詐欺の可能性があるので警察へ。これはまだわかる。

それがだめなら消費者相談センターへ?アンタ、頭大丈夫か?

 

すると相談員はこう答えた。

「まずは情報提供ということで、監督官へ情報を回すかどうかというところなので」

いやいや。それは内部の事情であって、相談員のあなたが監督官へ「情報提供届」なるものを提出してくれればいいのではないか。その結果、調査をするしないは監督官の判断によるわけだが。

 

「ではどうすれば『明らかに労働法違反を犯している会社』へ調査に入ってもらえますか?情報提供ではなく『申告』という形で相談はできませんか?」

わたしは怒りに震えながら静かに質問する。

「だからぁ、申告の前にご自身で簡易書留で書面を送るとか、そういうことをしてから・・・」

 

話は途中だったが、わたしは思わず怒鳴りつけた。

「あなたは一体、なんの仕事してるの?違法状態の会社を目の前に、被害者をたらい回しするのが役目なの?」

 

ーーせめて今後とるべき行動や方法について、友人へ説明してほしかった。その結果、友人が動くかどうかは別の話であり、現実的に何ができるのか、その方向性を示すことが労働法を遵守させる監督官庁がするべき仕事ではないのか。

 

「相談員じゃなくて、監督官と話させてもらえませんか」

失礼を承知でわたしは切り込んだ。

「この話を再び監督官にするのであれば、つなぐことはできません。そういう決まりなので。だいたい今日はヨンイチ(4月1日)でみんな忙しいんですから」

ーーそれが本音か。

 

わたしは不思議でしかたなかった。今回の事件は労基法の問題だけでなく、そもそもの雇用契約等に違反があるのは明白。

しかし事実として労基法違反があり、それに対して再三行動したにもかかわらず違法状態が継続しているわけで、その相談が「情報提供」止まりで「申告」とならない理由がわからない。

 

監督官への相談が「申告」となり調査に移行した事例を、わたしは過去に何度も経験している。

仮に即時調査とならなくても、順序として何をどうすべきか、指南することくらいはできるだろう。

 

少なくとも、消費者相談センターなど案内する監督署は初めてだった。

 

「本人を再度監督署へ向かわせるので、この先すべきことを伝えてあげてください」

「あぁそうですか」

 

挨拶もなくガチャンと電話を切られた。

申し訳ないが、これを「老害」と呼ばずしてなんと呼ぶーー。

 

 

あの年配の相談員も、かつては敏腕監督官として活躍していたのかもしれない。昇進し、最後はお偉いさんになったのかもしれない。その後、相談員というポジションへ下り、結果のわかり切ったくだらない相談ばかりの毎日に、辟易していたのかもしれない。

だがわたしは、社労士も監督官も監督署で働く人間も、ある意味「仲間」だと思っている。目指すべき方向は一致しているからだ。

 

なにより、職を失う覚悟で行動を起こした友人に対して、申し訳ない思いでいっぱいだ。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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