下半身丸出し男と対峙した真面目な話

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近所の郵便局へ行ったときのこと。

 

なにやら人だかりができている。

私はレターパックを買いたかったので、人だかりをかき分けて郵便局内へと進んだ。

最前列まで来たとき、中の様子が見えた。

 

コチラに背中を向けて、男性が一人立っている。

 

中肉中背、ややロン毛、歩きはしないがゆらゆらと揺れている。

足元は、靴も履かずに裸足だ。

 

――何か凶器でも持ってるのかな?

左手はダランと下げているが、右手が見えない。

郵便局員も全員、外へ避難している。

 

――おかしいな、なにもしないなんて

私は男性の背後から、静かに郵便局内へ足を踏み入れた。

 

 

局員のいない郵便局へ入るのは、人生初だ。

しかも顔の見えない、得体のしれない男性と二人。

 

男性から3メートルくらいの距離をとり、奥へと進んだ。

そして男性を観察した。

男性はただ立っていたのではない、下半身を丸出しにして右手を動かしながら、立っていたのだ(漢字は配慮)。

 

――だから右手が見えなかったのか

顔の表情は髪の毛で見えない。

うつむきながら、ゆらゆらとゆれながら、右手を動かし続けている。

 

(・・・うーーん)

 

しぶしぶスマホで動画撮影を開始した。

 

私は社労士だが、その前はスポーツ新聞社に勤務していた。

それを話すと「(動画撮影は)職業柄だね」とか言われそうだが、そういうわけではない。

一つの違和感を覚えたからだ。

 

ま、それは後ほど。

 

男性が万が一格闘技経験者とかで、組み合うことになったら厄介だ。

なぜなら、下半身丸出しだからだ。

せめてパンツを履いてほしい…などと考えながら、所轄警察署の銃砲担当へ電話をした。

 

当時、私はピストル射撃をしていたため、銃砲担当直通の番号を持っていた。

 

「あのー、ウラベですけど。

いま●●郵便局の中にいるんだけど」

 

「え?何してるの?」

 

「通報、入ってないですか?」

 

「来てるよ、いまウチの署員が向かってるよ、なんでそこにいるの?

え?もしかしてウラベさんが犯人??」

 

(んなわけねーーだろーーー!!!)

 

小声で事情を説明し、電話を切る。

その間、男性はずっと同じ動きを繰り返していた。

こちらへは何の反応を示さずに。

 

 

この時点で、私の脳裏には一つの答えが浮かんでいた。

 

――この男性は犯罪者ではない、障害者だ

 

当時、行政協力で某区役所内にて年金相談員を委託されていた私は、障害年金の相談を受けていた。

なかでも、精神障害の相談がずば抜けて多かった。

年間100人超の相談があったので、さまざまな精神疾患の症状や対応を目の当たりにした。

なので最初に男性を見た時点で、きっとそうだろうな、と感じていた。

 

 

しばらくして警察が到着した。

私と入れ違いに中へ入ると、男性を両脇から抱えてパトカーへと乗せた。

現場へ来た警察官は、私のことを知らないのでしきりに心配してくれたが、その場で聴取されるのも面倒だったので、すぐさま逃げた。

 

逃げ際で聞こえてきた、一部始終を見守っていた住民たちの会話。

 

「怖いわよねー、ああいう男がいるなんて」

「さっさと逮捕して、二度と出てこれないようにしてほしいわ」

「(子供の)下校時刻より前でよかったわー」

 

まぁそれは、地域住民としては当然の感想であり、当然の意見ではある。

 

あの男性は多分、一人暮らしではないだろう。

勝手な想像だが、親御さんと同居していると思う。

親御さんが目を離したすきに、外へ出てきてしまったのだろう、靴も履かずに裸足で。

 

男性は、自分がしている行為が何なのか、また、それが法律上問題のある行為なのかどうかも判断はつかないはずだ。

ただ、家の鍵が開いていて、ふらっと外へ出てしまい、たまたま郵便局を見つけて中に入ってしまったのだろう。

 

この事実を、男性の親御さんが知ったらどう思うだろうか。

野次馬が言った「逮捕してほしい」という言葉を聞いて、どう感じるだろうか。

 

 

日本人はもっと「知るべき」だと思う。

世の中にはいろんな病気や怪我があり、その病気や怪我が治癒(症状が固定した状態を指す)した時点で障害が残った場合、その状態に応じた障害認定がされる。

はたから見て分かりにくい障害は、とくに誤解を受けやすく認知されにくい。

そのせいで、本人だけでなく、その家族もがつらい思いをすることになる。

 

”自分は普通で障害者が異常(特別)”なのではない。

障害者を自然に受け入れられない、文化や民度の低さこそが「勘違い野郎の腐った人間性」の象徴だ。

 

知ること、体験すること、理解すること、それらを経て感じることといえば、

「あれ、みんな同じじゃん」

しかない。

 

 

所轄警察署へ行き銃砲担当と話をした。

撮影した動画も提出した。

一応、捜査に協力しなければならないので、取調室へ入れられた。

 

私が「捜査協力者」だと思わない警察官は、冷たい視線でこちらをチラ見するが、どちらかというと、ソチラ側の人間であるほうが(私は)似合ってる感じもしたので、なかなか面白いな、と思いながら取り調べを受けた。

 

「じゃあここ(調書)に、こう書いて」

 

供述調書には一応、ひな形のような文言が用意されていた。

正確な内容は覚えていないが、事実を記入することに加え、

「あのような怖い思いはしたくないので、今後は取り締まりを強化してほしいと思いました」

というような、注意喚起を促す例文があった。

 

「これ、この通りに書かないとだめ?

私はこう思ってないんだけど」

 

「え?どういうこと??」

 

結局、警察が折れて、私は私の思ったことを供述調書へつらつらと書き記した。

 

「(中略)特に、見た目で判断しにくい脳機能障害や精神疾患を抱える患者への理解と、その家族のフォローを、地域一体で支える必要があると感じました。今回の事件は、身柄を拘束された男性だけの問題ではありません。保護者である家族または施設の管理(見守り)と、男性含む関係者を、本来サポートすべき私たちの、知識や理解が不十分なために起きた不幸な事件です。今後は、私たち個人が、病気や障害を知り、当事者含む関係者までサポートしなければならないと思いました。」

 

**

 

一か月後、警察署から封書が届いた。

内容は「(所轄)警察署長賞」と「金一封(5,000円)」がもらえる、というものだった。

 

普段、銃や火薬でお世話になっている生活安全課へ、ちょっとした恩返しができたかな、といういい話に着地できた。

 

(警察からの封書を見た瞬間、数々の悪事が走馬灯のようによみがえった。どれがバレたんだ、逮捕されるのか、弁護士へ連絡すべきか、など、郵便受けの前でガクブルしたことは、秘密にしておこう。)

 

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2件のコメント

昔の話だがプロボクサーライセンスを持つ知人が年に数回街中で見知らぬ人から殴り掛かられていた。
(NYやロスではないが蒲田)
もちろん攻撃をかわし捕まえ警察に通報するのだが、
到着した警察官曰く「あ~こいつは逮捕できないよ」だそうだ。
正確には逮捕しても起訴できず釈放なのだろう。

そこで思い出すのは極真の師範から言われた
「トラブルになったらとにかく逃げろ」
「そのために走り込みを怠るな」だ。

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