本日は久しぶりにあっせんに参加した。あっせんとは、専門家に「どうどう」と喧嘩の仲裁をしてもらうシステムだ。しかも無料で。
誤解を生むといけないので補足すると、「あっせん」は個別同労紛争解決制度の一つで、紛争当事者(労働者と使用者など)の間に、公平・中立な第三者として労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ、調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図る手段のこと。
あっせんの前には、当事者(労働者または使用者)から労働局等への「労働相談」があり、そこで「助言・指導」が行われるも解決しなかった場合にあっせんへとすすむ。
労働審判が裁判所で行われるのに対し、あっせんは労働局で開かれる。また、費用が無料で代理人の専任を必要としないことから、弁護士に依頼せず当事者のみで進めることが多いのが特徴。
とはいえ、あっせん参加に伴い使用者は仕事から離れなければならないため、零細企業にとっては簡単なことではない。そこで我々特定社労士が、使用者からの依頼をうけて代理人としてあっせんに参加するのだ。
あっせんで揉めごとの調整を行うのが「紛争調整委員」で、弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家が担当する。ほとんどの場合が弁護士だと思うが、ちなみに今回も弁護士だった。
正直、紛争調整委員もなかなか大変だと思う。双方が双方の思うがままに主張をするわけで、少しでも寄り添う気持ちがなければ解決などするはずもないからだ。
そしてあっせんの申立ては、そのほとんどが労働者側からである。中央労働員会がまとめた「都道府県労働委員会別あっせん件数(平成28年度~令和2年度)」の令和2年度によると、労働者265件に対し使用者4件という圧倒的な件数差がある。
そして終結(あっせんの終わり方)については、解決と打切が同じくらいということで、打ち切られて納得のいかない申立人は労働審判へと移行する。
悲しいかな、あっせんの件数は年々減少しているが、労働審判は徐々に増えている。これは話し合いなどの穏便な手段では、解決できない労働問題が増加していることを裏付けている。
あっせんは「自主的な解決を促進するもの」であり、強制力はない。よって、弁護士にカネを払ってでも「この恨み晴らさでおくべきか!」という、権利意識と強い執念を持った労働者が増えてきているのを、ひしひしと感じる昨今なのである。
そして改めて思うのは、労働紛争というのは法律というフィールドでの争いなんだということ。我々社労士は労働法のフィールドで暗躍する実務家であり、法律論だけで白黒つけることのできない畑で仕事をしている。
「残業代を払いたくない」
という相談を持ちかけられたら、
「業務委託契約にすればいい」
というのは素人の発言。社労士、というか私ならば、
「残業させないような働き方にすればいい」
と答えるだろう。それでも労働者数の減少やクライアントの都合などにより、やむを得ず残業が発生する場合もある。しかしそこは労働者を雇用するにあたっての責任として、使用者が受け入れなければならないコストであり、そのくらいの覚悟は持っていてもらいたい。
過去には恒常的に残業が続く勤務形態の会社に、営業時間を短縮してもらったこともある。
「この人数で残業なしでは、店がやっていけません」
と嘆く事業主に対して、
「では営業時間を前後30分ずつ、短縮するのはどうですか?」
と、経営者の観点からは信じられない提案を持ちかけたことがある。当初は憤慨し断固拒否だった社長。しかし試しに数日間だけ営業時間を変えてみたところ、売上に大きな変化がなかったため、結果的に人件費のみがカットできたのだ。
要するに「知恵の出し合い」のようなものだろう。合法的に柔軟なアドバイスをすることが社労士の仕事であり、使用者が欲するアイディアなのだ。
ただし、必ずしもコンプライアンスが徹底されている会社ばかりではないのも事実。企業の規模で判断するのは良くないが、使用者がプレイヤーとして現場に出ている小規模の事業場や、相対的に労働力の乏しい零細企業では、ときに労働者の立場が上となることもある。
本来、使用者の指示で労働に従事するはずの労働者が、使用者の意図とは異なる方向へ率先して動いたり、労働者間で徒党を組んで使用者を孤立させたりと、エスカレートすると手に負えない事態となる。
それでも法律上は「使用者は労働者へ業務の指示をすること」「労働者は使用者の指揮命令下にあること」が示されているため、「労働者が勝手にやった」というのはいただけない。その結果、労働者の勝手な行為の責任を、使用者がとらされることとなる。
法律の話だけならば、白黒つけるのは簡単だ。しかし、他人同士が職場という小さなコミュニティーに集まると、法律やルールだけでは統制できない事態も起こり得る。
労働者と使用者とそれぞれに意見や主張があり、ましてや労働者は労働法で守られているため、どちらかというと使用者が痛い思いをするケースが多い。極論だが、バックレても損害賠償の責任など問われない労働者に対して、どんな場合でも労働時間分の賃金を支払う義務がある使用者との温度差は、わりとえげつない。
そしていずれの場合でも「法律上の判断」でしか解決されない。どんな理由や事情があろうが、違法か合法かの二つに一つ。こうなると、実務上の言い分(いいぶん)など意味がないのだ。
それらも踏まえて、労働紛争を解決していなければならない。それが社労士の仕事ってやつだから。
サムネイル by 希鳳
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