もう来週に迫っているが、10月1日から最低賃金が改定される。厳密には「1日から7日の何れか」だが、これは都道府県によって異なる。
ちなみに東京は1日から1,041円となり、現状の1,013円から28円のアップ。だがアルバイトの求人を見ると、大半が1,050円以上スタートなのでそこまで問題はなさそう。むしろ、月給で給与をもらっている人に影響があるかもしれない。
私の顧問先でも該当者がそこそこいるが、「固定残業代」を支給している場合、固定的賃金が最低賃金を上回っているかどうかを確認する必要がある。
固定残業代とは、あらかじめ一定時間分の残業代を支給することを意味する。たまに見かける
「みなし残業代 30,000円」
という表記、これはツッコミどころ満載で笑ってしまう。
まず「みなし残業」という言葉はおかしい。「みなし労働時間」ならば法律用語として存在するが、みなし残業は存在しない。そもそも、残業したとみなすこと自体に問題がある。あらかじめ残業させる前提で労働契約を締結するならば、法定労働時間というものが何のためにあるのか説明がつかないわけで。
さらに、金額だけをドーンと表記していることもおかしい。残業代といえども、その「金額の内訳」を記載しない限り、賃金の契約として成立しない。
つまり正しくは、
「固定残業代(××時間分) 30,000円」
こうなる。ちなみに××時間分の固定残業代をあらかじめ支払うわけだが、これは残業を約束しているわけではない。
固定残業代を支給するケースは、なんやかんやで日々の数分~数十分の残業が蓄積した結果、一か月で見るとまぁまぁの残業代が発生する場合などに、給与をある程度固定させるための手段として用いられる。よって、残業0時間でも支払わなければならないし、××時間を超えた分は当然、別途残業代を支払わなければならない。
とはいえ、表面上は残業を強制するものではないと言いつつも、同じような業務に従事する他の労働者を参考に設定されるので、固定残業代が支給されるということは、少なからず残業は発生する仕事なのだと覚悟しておく方がいいだろう。
さて、ここで最低賃金の話に戻る。この固定残業代を計算するにあたり必要となる「時給」の母体が、「固定的賃金」と呼ばれる部分。
字面からも基本給のイメージが強いが、必ずしも基本給のみとは限らない。役職手当、資格手当、職務手当などなど、毎月固定で支給される手当をひっくるめて「固定的賃金」と呼ぶ。もちろん基本給と固定残業代しか支給されていない場合は、基本給が固定的賃金となる。
その「固定的賃金」を「所定労働時間」で除した金額が「時給」となる。
例えば都内の企業に勤める場合で、月の所定労働時間が170時間、総支給額200,000円、最低賃金ギリギリで固定残業時間をマックス詰め込みたい、という設定だと
・基本給 173,000円
・固定残業代(21時間分) 27,000円
このようになる。そして173,000円を170時間で除した1017.6円が時給となるが、この条件で10月1日を迎えると、最低賃金法に違反してしまう。
繰り返しになるが、東京都の最低賃金は1,041円になるので、所定労働時間170時間を乗ずると、1,041円×170時間≒177,000円。仮に、総支給額200,000円を据え置きで最低賃金をクリアするならば、
・基本給 177,000円
・固定残業代(17時間分) 23,000円
こうならなければならない。そして、もしこの契約の労働者が日頃から17時間を超える残業をしている場合、別途残業代を支払うこととなる。
9月までは21時間分の残業代が含まれていたが、10月からは固定的賃金(当該ケースの場合は基本給のみ)が上昇したため、残業代自体も上がることとなり、結果として17時間分しか付与することができないからだ。
よって、21時間分の残業代をあらかじめ支給するならば、
・基本給 177,000円
・固定残業代(21時間分) 28,000円
となり、総支給額は205,000円にしなければならない。この辺りは人件費の割合をどう考えるか、また労働時間管理の徹底が可能かどうかにもよるので、企業によって対応は異なる。だが最低賃金ギリギリで働いていた労働者にとっては、自動的に昇給となるためラッキーなことだろう。
今回は「固定残業代」を含むケースを例に挙げたが、固定的賃金(基本給、役職手当、資格手当等)のみを支給されている場合でも、最低賃金ギリギリの場合は注意が必要だ。
不安を感じる労働者(友人)は、勤務先か私に確認を。また、不安を感じる雇用主(友人)は社労士か私に相談することをお勧めする。
サムネイル by 希鳳
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