北海道で、美味いジンギスカンを食べた。
ジンギスカンといえば北海道の郷土料理であり、大阪のたこ焼きくらい有名だろう。
事実、学生アルバイトの兄ちゃんも、
「大阪の人が上手にたこ焼きを焼けるみたいに、北海道の人間は上手に羊肉が焼けるんですよ」
と、自信満々に語っていた。
つまり道民ならば、どこの家庭でもジンギスカンが当たり前に行われている、ということなのかーー。
(うらやましい)
しかも、ジンギスカン(羊肉)といえば独特のニオイがあるので、しっかりと焼くイメージがある。しかしこの店の肉は、ほぼレアで食べられるのだそう。
いや、むしろレアこそが美味かったのだ。
「生でも食べられる肉しか出していませんから!」
バイトの兄ちゃんも誇らしげである。
北海道素人のわたしは、メニューにある「士別サフォークシャトーブリアン」というのが、いったい何なのか想像もつかなかった。
さすがに、シャトーブリアンだからヒレ肉なのだろうとは思ったが、「士別」「サフォーク」がわからない。
かといって調べるのも面倒だったので、「シャトーブリアン」の響きだけで注文してみた。
後日調べたところ、「士別」は市の名前だった。羊の飼育が盛んな市で、松坂牛や夕張メロンのように、士別がすでに羊肉の有名ブランドの模様。
そして「サフォーク」は羊の種類。犬でいうところの「アフガンハウンド」や「チャウチャウ」のようなものか。
サフォーク種の特徴は、顔と四肢が黒いこと。画像を見るとピンとくるが、ちょっと上品そうな羊である。そして当然、高級な羊である。
つまり、士別市という羊肉における有名な土地でとれた、サフォーク種という高級品種のシャトーブリアン(ヒレ肉の中でも中央部分の、やわらかくて高品質な部位)だったわけだ。
まぁとにかく、その時点ではどこの何かは分からなかったが、こちらもレアで美味しくいただいた。
食べてみて驚いたのは、牛肉よりも柔らかくとろけるような舌ざわりだったこと。味付けなどしなくても、肉の旨味だけで何切れでもイケる美味さなのだ。
なお、この店の特徴は「炭火焼でジンギスカンを出す」ところにある。炭の上に、ドーム型の鉄でできたジンギスカン鍋を置き、そこで羊肉を炙るのだ。
本来ならば「焼く」のだが、それほど肉を放置せずにササっと火を通す程度なので、やはり「炙る」という表現が適切だろう。
ちなみに、ジンギスカン特有の煙モクモクを覚悟していたわたしは、ジャケットに臭いがつくのを防ぐためにゴミ袋まで持参した。だが、予想以上に無臭であることに驚かされた。
他のテーブルからも煙はほぼ見えない。
さすがに着衣にはそれなりのニオイがつくだろうが、それでも気になるほどではなく、味もさることながら、この事実が圧倒的に気に入ったのである。
もちろん店内は禁煙のため、ジンギスカンの煙以外にニオイは発生しない。
・・・はずだった。
だがある時、わたしの嗅覚レーダーがとあるニオイを検知した。
(誰かがタバコを吸っている!)
禁煙の店内でタバコを吸うとは、とんでもない不届き者である。念のため、外で誰かが喫煙している可能性も探ったが、ここは2階なのでありえない。
やはり、店内のどこかから漂ってくるのだ。
(・・・あ!)
キョロキョロと辺りを見回したわたしは、厨房の隅っこで一服している店員を発見してしまった。
換気扇も回っているし、彼なりに十分気を使ってはいるのだが、紛れもなく彼のタバコから発せられるニオイである。
ところが、タバコのニオイに対する嫌悪感が半端ないわたしであるにもかかわらず、あの光景にはほっこりしてしまった。
なぜなら、ここまでの時間帯の厨房は、彼が一人で回していたのだ。店内には、我々を含むそこそこの客がいるため、ひっきりなしに注文が入っていた。
そりゃ、一服したい気分にもなるわな・・・。
仮にこれがカフェやスイーツの店ならば、断じて許せない。
だがジンギスカンの店だからこそ、なぜか許せてしまう「雰囲気マジック」とでも言おうか。
そんなこんなで、多種多様なジンギスカンを味わったわたしは、満足げに店を後にしたのであった。
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