惜しい政治家

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友人は誇らしげにこう言い放った。

「マイノリティやからな!」

ものすごく久々に会った彼は、いつの間にか国会議員になっていた。そして薄っぺらさがウリの彼は、相変わらずペラペラだった。ちなみにこの発言の元の会話は、

「どんなに偉そうなことを言ったり書いたりしても、所詮は日本語だからね」

という私の発言による。一億二千万人の日本人、その中でも読み書きができる人数は限られる。つまりどんなに偉そうに発言したとて、それを理解できる人間というのは世界的にみれば少数派。

 

インターネットを通じて世界に配信できることがウリのSNS。しかしコンテンツを見聞きできたとて、感銘を受けたり心を動かされたりするのは、日本語が理解できる日本人でしかない。

 

なぜ私がこのような発言をしたかというと、議員になって偉そうに語る友人に、

「所詮オマエは日本人にしか影響力はない」

ということを突きつけようとしたためだ。だがそれに対して彼は悪びれもせず、日本という島国でしか使われていない言語を「マイノリティ」と称して逆手にとったのだ。

 

耳当たりのいい言葉に置き換える能力、これもまた政治家に必要な資質なのではないかと思うのであった。

 

 

いつもなにかと「惜しい」ところが、この友人のいいところである。中でも一番の武勇伝は、1点足りずに司法試験に落ちたことだ。きっとその1点で涙を呑んだ受験生はたくさんいただろうが、不合格となった彼はこれを逆手にとり、名刺代わりに活かしているから素晴らしい。

「たった1点足りずに落ちたんや。つまり知識的にはほぼ弁護士や!」

これは彼の常套句だ。現役の弁護士(友人)に向かっても堂々と発言できるあたり、強靭なメンタルを兼ね備えている。

 

選挙活動中にSNSを通じて彼の姿を目撃したが、注目を集めたのは日本を変えるほどの政策でも、政治家としての熱い想いでもなく、ポケットに詰め込んだ内容物の盛り上がりだった。別の友人もそのことが気になっていたらしく、我々二人から厳しく注意された彼はその後は物を入れなくなった。

だがすでにスーツのポケットは伸びきっており、物を入れていないにもかかわらずもっこり膨らんでいるという残念さよ――。

 

2ちゃんねる創設者のひろゆき氏は論破王として知られる。知識も豊富だが、切り返しの上手さや防衛力の高さが論破王の地位を確立したように思う。自分の得意分野や興味のある話題だけを追及することで、ボロを出すことなく相手を追い詰めることができるからだ。

これは政治家に必要な話術というかテクニックだと思うが、この点について論破を得意とする(?)友人に聞いてみた。

「せやねん。だから俺に『朝まで生テレビ』からオファーきたらどないしよって、毎日ドキドキしてんねん」

真面目な顔でこう答えてくれた。あぁ大丈夫だ、キミのようなしがない一兵卒にオファーが来るほど、テレビ朝日も暇ではないだろうから。

 

このように、どこかちょっと「惜しい」という不完全さこそが、友人の長所であり人から愛される理由なのだろう。

とある会話の途中、私が「公務執行妨害が成立する要件」について弁護士の友人に尋ねたところ、

「ほら法務博士、答えてよ」

と冷やかし半分に”惜しい友人”へ振った。すると彼の顔からはさっきまでのニヤニヤが消え、ふんぞり返っていた上半身を起こすと背筋を伸ばし、しどろもどろになりながらこう答え始めた。

「え、えっと、ショクムチュウノコウムインニ、ボウコウマタハキョウハクヲクワエタ・・・」

目は一点を見つめ、暗記した何かをひねり出すようにツラツラと棒読みをする。そして一通り言い終えると、

「え?あってるよな?」

不安げな表情で弁護士の友人を見上げる。

「うん、あってるよ」

正解を告げられ安心した彼は、再びふんぞり返るとドヤ顔で自慢し始めた。

「な?あってるやろ!」

 

このあたりも「惜しい」と感じる所以なのだが、逆に考えるとこの稚拙さこそが、あとちょっとで論破できる!というところで返り討ちに遭う「彼らしさ」の担保ともいえる。

 

国民の代表として議員になったからには、持ち前の「惜しい!」=「チャーミングなキャラクター」を活かし、人間味のある政治を目指してもらいたいものだ。

 

サムネイル by 希鳳

 

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