――あぁ、この怒りをどこかへぶちまけないと気が済まない。どうして世の中、こうもうまくいかないものなのか!
重度の突き指に加え、わずかな亀裂が入っていたわたしの右手親指は、ほぼ治りかけていた。ところが今日、再び痛めた。さらに腹の立つことに、またもや自爆という最悪の原因によるものだ。
つい先日、ミカンの皮を右手でむくことができるまでに回復し、大喜びでミカンを食べたあの日が懐かしい。とはいえ今日だって気を付けていなかったわけではない、むしろ十分に気を付けていた。その証拠にちゃんとテーピングを巻いていたのだから。
――そう、このテーピングに対して怒り爆発なのだ。
*
友人に誘われて久しぶりの出稽古へと向かう途中、薬局の前を通りかかった。
(そういえばテーピングが終わっちゃったな)
いろんな場所を怪我するわたしは、テーピングの消費も激しい。また、怪我の予防としてもテーピングは大切なので、さっそく薬局へと入った。
本日のメインは右手親指。ここを保護するべく指のテーピングを購入…と思ったら大間違い。それについてはすでに100ロールほど、自宅にストックがあるからだ。
数年前、とあるイベント会場でのこと。段ボールにぎっしり詰まった「指用テーピングテープ」がたたき売りされていたのだ。しかも2,000円という破格の値段だったため、当時指など痛めてはいなかったが、大喜びで段ボールごと買い取ったという思い出の品である。
ところがというかやはりというか、そいつは残念ながら安く売られるに値する程度の性能だった。テーピングの重要な要素として「粘着力」が挙げられる。テーピングというのは指をダイレクトに固定または保護するわけで、粘着力が弱ければ意味がない。ましてや柔術のような激しい動きに耐え得る強度として、皮膚にくっ付かないような粘着力ならば張りぼて同然。
にもかかわらずそいつは粘着面がサラサラしており、皮膚に強力にくっ付いてやろう!という気迫が感じられない。だが不思議なことにテープの上に重ねて巻くと、なぜかそこそこの粘着力をみせる。しかし対皮膚となるとまったく役に立たないという困りもの。
(これじゃ投げ売りされるわ・・・)
テーピング100ロールを2,000円で購入できたら、言うまでもなくめちゃくちゃお得な買い物だ。とはいえその商品が役立たずの場合、無駄とまでは言わないが残念な気持ちは沸々と膨らんでいく。
どうにかして使ってやりたい気持ちは山々だが、皮膚にくっ付かないのだからテーピングとしての用を成さないわけで、いったい何に使い回せばいいのやら――。と、そこで妙案を思いついた。
(まずは役立たずで指を巻いて、最後にちゃんとしたテーピングで皮膚にくっ付ければいいんじゃないか?)
我ながらグッドアイディア。これはネイル業界で活用されている「トップコート理論」だ。マニキュアは、色を塗ってそのままにしておくと衝撃や摩擦で剥がれてしまう。そこで「トップコート」という透明な液体を塗ることで、色落ちを防ぎつつ爪自体の保護も果たすのだ。
つまり、役立たずのテーピングでとりあえず指を巻いて、仕上げに粘着力の強いテーピングでコーティングしてやればいいわけだ。
だがここで注意しなければならないのは、テーピングの太さだ。指のテーピングだからと「指用」を買ってはいけない。なぜなら、指を固定した範囲はテープの幅よりも広いため、指用テーピングの幅ではとてもじゃないがコーティングできないからだ。そこでわたしは「足首用」のテープで試してみた。
(うん、バッチリ)
さすがわたし、想像通りに事が進んだぞ。テープ同士ならば辛うじて貼りつく、役立たずテーピング。こいつである程度まで形成し、最後に足首用テーピングでギッチリ貼り付けて保護。
このアイディアにより、役立たずは役立たずのまま葬られずに済んだのだ。
――というわけで薬局のテーピングコーナーを物色する。なんとここには「足首用」だけでなく「手首用」があるではないか。うぅむ、これは迷う。普段テーピングを買っている薬局は駅ナカの小さな薬局ゆえ、せいぜい指と足首の2種類と、キネシオテープくらいしか置いていない。
だがここは天下の池袋に店を構える老舗薬局のため、ありとあらゆる種類のテーピングが陳列されている。さらに全種類、白とベージュの2色から選べるという豪華選択肢付き。
(これは困った。珍しいから手首用を試してみようかな・・)
新しもの好き精神が騒ぎ出したため、今回は「手首用」を購入。たしかに今までの足首用は、さすがに指や手首には太かった。とはいえ役立たずの指用テーピングを完全にコーティングするには、そのくらいの太さが必要だったので、やむを得ず使っていたわけだが。
よって今回、手首用のほうが使いやすければ、帰りにもう一度あの薬局へ寄って買い占めるしかない――。
*
ハイ、その結果が冒頭でお伝えした「怒り」を生んだわけで、手首用では役に立たなかったということだ。チャレンジとはいつだって「帯に短したすきに長し」なのだ。
サムネイル by 希鳳
コメントを残す