年齢はただならぬ数字

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――Age is just a number(年齢はただの数字)

 

(たしかにその通りだが、それにしてもこの会社の平均年齢は、いったい何歳なんだ?)

 

 

わたしは今、顧問先の労働者情報を整理している最中だ。新たに関与することとなった会社なので、まずは片っ端から労働者のプロフィールやらマイナンバーやらを、社労士ソフトへ入力するという初期作業を行っている。

これこそ「自分がもう一人いたらいいのに」と思う仕事の一つだが、他人のことは一切信用しないので、バイトを雇うという選択肢がそもそも消えていることに問題がある。

だがどうあがいても己に振りかかる以外にこの作業の行き場はないわけで、せっせと24時間キーボードをたたき続けるしかないのだ。

 

こういう単純作業に没頭するとき、わたしは2種類の方法を使い分けている。一つはマシーンになる方法。もう一つは構成作家になる方法。

 

前者は字のごとく、文字や数字を機械的にひたすら入力するだけ。たとえ変わった名前を見かけても、そこで止まってはならない。たとえ自分と同じ生年月日を見つけても、親近感を覚えてはならない。

(意味を考えるな、ただひたすらサイレンススズカのように駆け抜けていくのだ!)

この方法のいいところは、スピードが速い上にミスが少ないこと。もちろん受け取ったデータに誤りがないことが前提となるが、ショートカットキーを駆使してひたすらコピペを繰り返したり、網膜に焼き付いた文字や数字をそのまま打ち込んだり、右脳の作業がカギとなる。

「この名前で女なの?!」

「あれ?この人知ってるかも…」

こんなことを思ってしまった日にはミスを招きかねない。なぜなら、データから得られる情報はそれ以上でもそれ以下でもないからだ。正しい情報を受け取っているわけで、その先を考えたところで答えなど一生出てこない。

だったらただひたすら、転記することに注力するのだ。

――そう、わたしはマシーン!スピードと正確さだけを追求するのだ!

 

そしてまったくオススメできない方法が、後者の「構成作家になる方法」だ。これはやってみると意外と楽しい。勝手な妄想を繰り広げながら、地味で単調な入力作業に色を付けられるからだ。

 

「なるほど。あなたは平成28年に、離婚を機に足立区へ引っ越してきたんですね。そして女手一つで息子3人を育てるためにも、時給ではあるがフルタイムで働き出したと。しかし会社がブラックなため、最初の半年間は雇用保険にも社会保険にも加入させてもらえなかった。堪忍袋の緒が切れたあなたは社長へ直談判しましたね。『社保に入れろ、さもないと監督署にチクるぞ!』と。それにビビった社長は、時給を100円アップさせたり雇用保険と社会保険に加入させたり、慌てて手続きを済ませた。そして今では、あなたがこのチームの大黒柱として社員を引っ張っているわけですね」

 

もちろんすべて嘘だ。嘘というか架空の話だ。この人が離婚したかどうかは知らないし、入社前から足立区民だったのかもしれない。会社がブラックかどうかも、保険加入していない理由が何なのかも当然、知る由もない。

 

だがモノクロのつまらない世界を前にすると、人間は機能不全となる。フワフワと舞う落ち葉を楽しそうに追いかける犬のように、単調な作業でも楽しみがあればカラフルで鮮やかな世界となる。

そんな魔法が「構成作家」だ。勝手に各人のストーリーを作り上げ、入力作業に命を吹き込むことで、単純作業がショートムービーへと変化する。

(これなら何百人でも耐えられる!)

仕事中に妄想を抱いても良いなどという環境、そうそう与えられるものではない。だからこそ自らの手で妄想のドアをこじ開けるのだ。

 

しかし注意しなければならないのは、この方法はいろんなトラップに引っかかる可能性があるということ。名前の読み方であったり、性別であったり、住所であったり、ツッコミどころが満載なのだ。

言うまでもないが、名前と性別は必ずしも一致しない。そのたびにいちいち驚いて、話を展開させたらキリがない。さらには疑心暗鬼に陥り、確認せずにはいられなくなるのが困りもの。

 

結果、作業は中断。「確認」という無駄な工程を挟むこととなるのだ。

 

 

だが今回、無心にマシーンと化したわたしも、さすがに手を止めて考えなければならない状況にぶち当たった。さっきから労働者の生年月日が、昭和十年代ばかりなのだ。若い人で昭和28年生まれ――。思わず年齢を確認する。

(昭和11年生まれって、今年86歳じゃん・・・)

そうなのだ、オーバー80歳が大活躍の職場だったのだ!

 

わたしははじめ、昭和11年ではなく「平成11年」の間違いではないかと疑った。後者の年齢は今年23歳、働いていたとしても決しておかしくはないだろう。だがどう見ても年号が「昭和」となっており、データを信じるとなるとこれは紛れもなく86歳の労働者なのだ。

しかも驚くことに、彼らは週30時間以上働いている。ちなみに職務内容は肉体労働的な部分もあり、とてもじゃないが高齢者にとったら過酷な就労環境のはず。

ところが彼らの入社年月日は平成の半ばあたりが多く、20年近く勤務しているのだから驚きだ。

 

「そうなんですよ、僕がこの会社で2番目に若いんです」

 

40代半ばの社長が、はにかみながらそう話す。わざと高齢者を集めているわけではなく、自然な流れで昭和10年~20年代が大半を占める会社など、社労士歴10年を超えるわたしにとっても初めての出会いだ。

 

そして「構成作家」目線でいくと、この最も若い労働者は、昭和前半生まれの”先輩労働者”の孫ではないかとにらむ。さっきたまたま、同じ名字の先輩を発見したからだ。

祖父母から孫へ職場を通じたバトンタッチができるなんて、やろうとしてできることではない。

 

――この会社がシニア世代に人気の理由を、探ってやろうじゃないか。

 

サムネイル by 希鳳

 

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