農家はつらいよ

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季節や天候に左右される仕事といえば、土木や建設業もさることながら、農業・漁業といった自然相手の産業が思い浮かぶだろう。東京という土地柄、都心でこれらの産業に従事する労働者は少ないかもしれないが、たとえば練馬区は23区内で最大の農地面積を有する区であり、農業に従事する関係者も多い。

代表的な農作物として、都内ナンバーワンの生産量を誇る「練馬キャベツ」を筆頭に、江戸時代から伝わる食文化の象徴「練馬大根」、トレーニーには欠かせない野菜である「ブロッコリー」、そして野菜だけでなくイチゴやブドウなど果物に加えて、シクラメンやサツキといった花の栽培まで盛んに行われている。

 

そしてこれら農業に従事する労働者は、その他の業種の労働者と同様に労働基準法の適用を受けるが、一部だけ適用除外となる規定がある。それが、労働時間・休憩・休日に関する部分だ。

 

「労働時間等に関する規定の適用除外」が定められている労働基準法第41条には、

「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。」

とされており、第一号には、

「別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者」

と記されている。小難しい内容で分かりにくいが、別表第一の第六号は、

「土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業」

第七号は、

「動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業」

というように、労働時間や休憩、休日の規定が除外される業種が列挙されている。

 

つまり農業や漁業、畜産業といった業種は、労働時間や休日の制限がないというわけだ。

 

たとえば田植えや収穫といった、短期間で全力疾走しなければならない時期がある稲作農家や、乳牛という動物相手に毎日2回乳搾りを行わなければならない酪農家など、誰がどう考えても残業や休日に関してごちゃごちゃ意見する余地のない分野ならば理解できる。

だが都市農業においては農地がそこまで広くないことや、ハウス栽培も多いことから、働き手はフルタイム労働者よりもパートタイム労働者で構成され、仕事内容も収穫や栽培管理だけでなく、加工販売や配達をセットで行う場合が多い。

「スーパーで働いていたときは休憩があったのに」

そんな愚痴の一つや二つ聞こえてきそうだが、労働者にとってはあくまで「バイト先」という認識で、それが「農業だから適用除外なんです」と言われてもピンとこない。集中力の観点からも定期的に休憩を付与するほうがいいわけだが、やはり生き物相手の仕事ゆえ、太陽が昇っている間に済ませなければならない作業がほとんど。

そうなると、曇天続きの後に快晴を迎えた日や、日没近くなどに休憩を与えることは難しい場合もある。

 

その結果、使用者(農家)が負担をかぶることになり、本業である農作物の栽培管理と労務管理との狭間で疲弊してしまうのだ。

 

使用者も労働者も同じ人間だが、仕事に関する責任の大きさはまるで違う。これは社長や役員、自営業者も同じ。身体的にも精神的にも疲労は蓄積するため、労働時間に制限を課すことに異論はない。だが、学生時代に徹夜で試験勉強をしたり、飲みやカラオケでオールしたり、己にとって必要なことや楽しいことについては「自己責任」の範疇で可能なわけで、必ずしも長時間労働が不可というわけではないだろう。

現に動物相手の仕事に対して、人間の都合で残業やら休日労働やらに制限を設けたとしたら、それこそ虐待である。

物言わぬ植物だって同じだ。適切に栽培管理しなければ、消費者が望む美味しい農作物はできないし、無駄な廃棄にもつながる。

 

とはいえ近年、農作業の機械化を軸に農業DX構想が進められている。これまでの人的作業がデジタル技術に置き換えられれば、労働時間の短縮や農作業の効率化が見込めるわけで、むしろ真っ先にDXを推進しなければならない分野が第一次産業といえる。

 

――そんなこんなで農家の顧問先の労務相談に頭を抱えながら、夜が更けていくのであった。

 

※サムネイル/農業用ドローンの普及に向けた官民協議会(農林水産省)より引用

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