URABEと書いてクレーマーと読む。本日も役所に対してクレームを突きつけたわたし。
「この件についての見解をお待ちしております」
手紙の最後にこう書き記したため、クレーム担当のお偉いさんから電話がかかってきたのだ。
*
事の発端はこうだ。顧問先の法人名と代表取締役が変更となったため、労働保険、雇用保険、社会保険のそれぞれについて変更届を電子申請した。労働保険と雇用保険は即日完了したが、社会保険だけは数日間動きがなかった。とはいえ、これはよくあることなので気にも留めていなかったが、申請から6日が過ぎた今日、e-Gov(イーガブ)から通知が届いた。
「この申請を返戻します」
まさかと思ったが、返戻理由を読んでみると、
「事業所変更届を申請いただきましたが、事業主も変更されているため、事業主変更届も同時に申請が必要です。そのため、事業所変更届は返戻させていただきます」
と書かれていた。つまり事業「所」変更届だけを申請したため、事業「主」変更届とセットでなければ審査はできません、という内容。これはたしかにその通りで、単純にわたしが「主」の変更届を申請し忘れたことが原因。
しかし疑問に思ったのは、
「なぜ事業所変更届を返戻しなければならないのか」
ということだ。まったく同じ内容を再申請する理由が見当たらない。電子申請時、我々社労士は提出代行者として身分証明と連絡先を記入する。申請内容の軽微なミスや確認事項は電話対応で済ませてくれることが多く、非常に助かっている。なぜなら軽微なミスのために返戻され、ほぼ同じ内容を再申請する手間とストレスを考えたら、電話確認で審査を進めてもらえるのはとてもありがたいことだからだ。
だがひと昔前はこうはいかなかった。名前の漢字が異体字(はしごだか、たつざき等)であるという「軽微な」違いを理由に、いちいち返戻されていた。さらにこの場合、環境依存文字であることが多いため、電子申請では使用できない。そこでフォーマット上は正字で記入し、備考欄に異体字の説明を添える形で申請していた。まったくバカバカしい。紙での申請ならばこの無駄なやり取りは発生しないのに、電子申請の場合のみこのような「お役所対応」がなされるのだから、なんのための電子化推進か分かったもんじゃない。
――話を戻すが、事業所変更届と同時に事業主変更届を申請しなければならないことは分かった。ではなぜ、先に申請している「事業所」の変更届を返戻されなければならないのか、その理由が知りたかった。そこで再申請時に「手紙」を添付したという経緯。
「申請者(事業主)の名前が違うと、別の人が申請したということになるので、事業所変更と同時に事業主変更も申請していただく必要があるんです」
お偉いさんが説明する。
「では、事業所変更を申請した後から事業主変更を送信した場合、これも返戻されるということですか?」
わたしが尋ねる。
「まぁそういうことになりますね。あくまで、事業『所』変更届の審査をするにあたり、事業『主』が違うということになると審査ができませんので。これは公平に審査するための取り決めなんです」
この「公平」という言葉にイラっときた。役所の決めゼリフである公平という言葉は、裏を返すと不親切を意味する。当事者に対してあまねく平等な対応となるように、少しでも不足があれが問答無用で突っ返すのが「公平」なやり方だからだ。
「これって、電話一本いただければ済む話ではないですか?」
怒りを抑えてわたしは質問を続ける。
「マニュアル通りに返戻しているので、ご理解いただきたいです」
でたでた、マニュアル。わたしは社労士の身分を捨て、一個人として彼に対して意見を求めた。
「いま説明していて、おかしいなって思いませんでした?少しも変だとは思いませんか?」
すると彼は黙った。マニュアルでは返戻することが正しい対応だが、電話一本かけることで追加申請を促すことができ、審査する側の手間も省けるわけだ。
「返戻する」ということは、再申請された内容を一から審査し直すことを意味する。まったく同じ内容を再び審査することこそ、無駄以外のなにもでもないだろう。そんなくだらないことで担当職員を疲弊させたくないし、こちらも無駄な時間を取られたくはない。
すると彼はこう答えた。
「お客様からの意見を上に伝える仕組みがあるので、今回の件を報告しておきます」
まぁこれが今できる最善の対応だろう。彼自身の独断と偏見でマニュアルを変えることなどできないわけで、外部からのクレームは「ご意見」としてしかるべき部署へ吸い上げられるのが一般的。
わたしとしてもこの言葉を聞けて満足だ。もし彼がさらなる反論をしてきたら(マニュアルの内容が正しいので、返戻することに問題はない!と一歩も引かなければ)さすがに失望したが、お偉いさんはクレーマー対応もお手の物だった。
*
公務員や特殊法人(準公務員)の職員として働く人は、個々の対応に差があってはならない。なぜなら「公務」だから。そして彼らはマニュアル通りの処理を指示されているため、本人が良かれと思ってマニュアルから外れた対応をすれば、それは「ご法度」となる。
これは仕方のないことではあるが、ならばマニュアルを現場にアジャストさせる努力、というのも必要なのではないかと思う。末端の職員らの苦労は、同じく末端で対応している我々には痛いほどよく分かる。だからこそ彼らに文句を言うつもりなどさらさらないし、むしろ彼らが背負わされる無駄な業務が減ることを願うわけで、責めるつもりは毛頭ない。
彼らだって内心「これっておかしいな」と思うことが、たくさんあるはずだから。
サムネイル by 希鳳
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