わたしは車の運転が下手なので、運転上手な人が羨ましい。中でも、カーブの曲がり方に無駄のない走りができる人は、神のごとく尊敬する。
逆に、必要以上にステアリングを回したり、やたらとブレーキを踏んだりする人を見ると、車が可愛そうでしかたない。
最近はパワステ搭載の車がほとんどなので、「据え切り」という言葉自体が死語に近いが、これは停車している車のステアリングを無理矢理回して、タイヤの向きを整える動作を意味する。
狭い駐車場にとめる場合など、タイヤの向きが横を向いたまま枠内に収まる場合がある。発進時のことを考えると、タイヤの向きを正面に直したほうがいいので、停車したままステアリングを強引に回すのだ。
その結果、タイヤに不要な摩擦を与えることになり、摩耗やアライメント不良を起こしかねないので、過度な据え切りは避けたほうがいいだろう。
とはいえ、
「イマドキの車は、そんなやわじゃねーよ」
と鼻で笑う輩もいるだろう。無論、不可抗力の場合は仕方ない。ただ、己の運転技術が足りないがゆえに起きる据え切りは、やはり車が可愛そうなのでやるべきではない。
その理由は、自分の体に置き換えてみると分かりやすいだろう。
爪先は前を向いているのに、強引に体を横へ向けたら、膝や足首を痛める可能性がある。もしくは足の裏の皮が剥けるかもしれない。
つまり、強引なステアリング操作はこれと同じ理屈であり、故障しないにせよ車は嫌な思いをしているのだ。
とにかく、車の運転は技術があるに越したことはない。よく、ドライビング自慢のオトコがいるが、スピードを出すことイコール「カッコいい」もしくは「運転が上手い」と勘違いしているケースがほとんど。
本当に運転が上手い人間は、「オレ、運転上手いんだよね」などとは言わないものだからだ。
*
かなりの驚愕というか、なるほどと唸らされた調査結果がある。
MS&ADインターリスク総研株式会社が実施した、「高齢者の自動車運転に関する実態と意識(2021年)についての主な調査結果(抜粋)」の中で、「ご自身の運転には自信がありますか」という質問があり、その答えに度肝を抜かれた。
なんと、「かなり自信がある」「ある程度自信がある」と答えた65歳以上の合計が、50%を超えているのだ。
しかも目を疑ったのは、80歳以上の55%が「ある程度自信がある」と答え、17%が「かなり自信がある」と答えているのだ。
(80歳以上の72%が運転に自信あるって、嘘だろ・・・)
これに呼応するかのように、「自信はない(多少の不安がある)」と答えた最下位は75~79歳(2.7%)、次いで80歳以上(3.0%)となっている。
ちなみに同じ質問の答えとして、20~29歳は8.7%、30~59歳は7.3%が「自信はない」と答えている。言うまでもなく、運転に自信があると答えた割合も、65歳以上と比べて10%以上低いわけで、これは「謙虚」というより「身の程をわきまえている」と考えるのが妥当だろう。
年をとればとるほど、運転に自信がつくものなのか。ましてや80歳以上の高齢者が最も自信を持っているとは、何かおかしくないか――。
さらに興味深いデータがある。
「直近3年以内の運転で、ご自身の不注意・過失によって『ヒヤリ・ハット』を経験しましたか」という質問に対して、「よくある」と答えた最大集団は20~29歳の層で7.3%、これに対して「ほとんどない」と答えた最大集団は80歳以上で23%だった。
なお、ヒヤリ・ハットは「ほとんどない」「あまりない」の合計が、80歳以上で60%となっており、さすがにこんなことはありえないだろう。
冷静に考えて、これは高齢者がヒヤリ・ハットに気付いていないのではないか?
そして、長年の運転経験から「自分は運転が上手い」と過信しているのではなかろうか?
人をはねて初めて事故に気付く高齢者が後を絶たない。そもそも、「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」など、運転技術以前の話である。
反応速度や判断力の低下により、とっさのアクシデントに対応できなくなっていることを、高齢者自身は気付いていないのだ。
本来ならば運転には細心の注意を払い、必要以上に安全運転を心がけるべきところを、意図的であれ無意識であれ、なにか抜け落ちてしまっているとしか思えない。
とはいえ地方では、車がなければ生活が成り立たない地域も増えている。それゆえに、単に免許証を返納すれば済む、という問題ではないだろう。
しかし、無謀な運転という「暴挙」に出た結果、他人の命を奪っていいはずがない。
なんというか、この行為は自覚がないだけで、未必の故意なのではないかと思わずにはいられないのだ。
*
老いも若きも、運転が上手いなどと過信しないほうがいい。
少なくともそう吹聴するオトコは、得てしてモテないものだから。
コメントを残す