日寺 矢豆

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緊急事態宣言による新型コロナ感染拡大防止のため、都内の飲食店やカラオケ店での夜間の営業時間短縮が敢行されて、もうじき2か月が経つ。

先日のこと、私は「カラオケの鉄人」で深夜まで友人の相談を受けた。同店は時短要請にもかかわらず営業を続けていたため、入店することができたのだ。

 

なぜこのご時世で営業を続けていたのか。同社を経営する根来社長は朝日新聞デジタルのインタビューに対してこう答えている。

「店を開けないと倒産してしまう可能性も出てきます。背に腹は代えられないということで、今まではやってきました。緊急事態宣言が出るときに、従業員が『不安で嫌だ』というのならやめようと思ったので、アンケートをしました。(中略)ほとんどが『続けたい』という回答でした」

 

カラオケ店で働く従業員は若者がメイン。実際に(カラオケの鉄人で)感染者が1~2名出たもののクラスターにはなっていない。

さらに、保健所や自治体から求められるコロナ対策をすべて行ったうえでの営業続行だったため、利用者側からしても不安はなく、むしろ難民収容所としてありがたい存在だった。

だが今月からは、どこの店舗も20時までの時短営業に切り替えざるをえない。

 

先月13日に施行された「改正特別措置法」が原因だ。

 

都知事による営業時間の変更などの「要請」に応じない場合「命令」が可能となり、その命令に応じない場合は行政罰として「過料(金銭罰)」が設けられた。

上場企業である同社はコンプライアンス徹底のためにも、時短営業を余儀なくされたかたち。

 

首都圏に特化したビジネスモデルの同社にとって、この時短営業は言うまでもなく厳しい状況を強いられる。しかも収益のおよそ8割が20時から24時の間となれば、その他の時間帯で営業をしたところで回収は不可能。かつ、一日6万円の協力金では、月に一千万円のコストがかかる店舗においては焼け石に水。

 

実際に私が店舗を訪れたとき、上階にある受付フロアでエレベーターを降りようとすると、フロアに溢れんばかりの人だかりができていた。順番待ちの人々だ。

見た感じはサラリーマンやOL、若いカップルなど。そして部屋へと案内される集団を見ると、そのほとんどが1人から3人の少人数

他の部屋を覗きながら進むと、室内で一人パソコンを開き、せっせと仕事をするビジネスパーソンの姿が何部屋も見受けられる。

 

(わかる、わかるよその使い方)

 

日ごろからスタバで仕事をすることの多い私は、20時になれば当然のごとく追い出される。せめて22時まで続けられるとありがたいのだが、そこは容赦なく閉店となる。

気分的に外で仕事を終わらせたい私は、夜勤難民となるのだ。

 

夕飯に関しても同じ。20時閉店ということはラストオーダーは19時となり、19時すぎに入店しようとしても断られる。そしてここでも夕飯難民となる。

 

そんな中、カラオケの鉄人ならば(当時は)朝まで営業しているため、自宅では集中しにくい作業がここでなら捗る。しかもドリンクやトイレ、空調、照明なども自由に利用・調整できるので、周りの目や時間を気にせず作業に没頭できる。

 

とはいえ法律違反はいただけない。

カラオケの鉄人というオアシスを失った私は、またもや「夜勤難民」となった。

 

 

友人行きつけのバーもご多分に漏れず時短営業を守っている。

だが、常連客らの愛溢れる話は面白い。

 

「20時近くになってそろそろ閉店だとソワソワしてたら、『19時なのでラストオーダーかな?』ってあるお客さんが言ったの。店の時計見たら一時間戻されてて19時なのよ、みんな笑ったわ〜

 

小学生か!と突っ込みたくなる低レベルな行為だが、そこまで堂々と時間を戻されたら、もはや正論など通用しない世界だろう。

しかし顧客らは、単にふざけているだけではない。

「この店から感染者を出すまい」

個々の体調管理の徹底に加え、厳重な感染予防対策を整えた上で来店することで、常連客である彼ら彼女らがその店を守っているのだ。

 

現実的な時間を止めること、戻すことはできない。その代わりに、たとえ短時間であっても仲間で共有する濃密な時間を楽しむことはできるかもしれない。

大のオトナが集まって、手で戻された時計の針を見ながら「まだ19時だよ」などということがまかり通るはずもない。

ただその想いは痛いほど伝わる。

 

時間は止められないし戻らない。

人生も二度と戻らない。

我々ができることは、今を理解し、これからを「選択」しながら進むことだろう。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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