早朝は、そう調子良くはない

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ーー寒い。

季節は3月だというのに、なぜ朝は寒いのだ。

 

日曜日の朝8時。起きなければならない用事がありアラームを3回もセットした。いま3回目のアラームのスヌーズが発動している。そして私は布団の中。

ゴリラに例えられるフィジカルなど見かけだおしで、寒さにはめっぽう弱い。

 

それだけ分厚い筋肉をまとっているなら、普通の人より寒くないでしょ?

ーーあまり関係ないだろう。

 

これが例えば10時ならパッと飛び起きることができたはず。10時は朝というより昼に近い時間帯ゆえ、その時刻を見ただけで「寝てる場合じゃない」となる。

だが、朝の8時は朝中の朝だ。ブラインドから漏れる日差しは完全なる朝日で痛々しい。本能的に「起きるのは危険だ」と感じるほど、まだ起きる時間ではない。

とはいえ9時に約束をしている私は、さすがに8時に起きなければならない。

しかしながらこの道ン十年のベテランは、8時に起きられるはずがないことを知っている。それゆえアラームを8時00分、8時15分、8時30分と15分刻みに3回セットした。ついでに8時30分のアラームにはスヌーズも追加した。

 

なぜ寒いのか。これは我が家がコンクリートの樽だからにほかならないが、居住者としては凍死するわけにいかないのであれこれ工夫をする。その一つとして、空気の流れを生む空気清浄機の活用が効果的。これにより室内に暖かい空気が回り、以前より安全で快適に過ごせている。

ところが今、その空気清浄機が停止している。さらに赤いランプが点滅し「満水」と表示されている。

(そうか、除湿モードにしてたから湿気がたまったんだ)

24時間稼働のバカエアコンは上の方で暖かな空気を送り続けているが、生憎(あいにく)その方向にはベランダしかなく、室内を暖める役割は微塵も果たしていない。そもそもアイツのせいで室内にもかかわらず防寒具に身を包まされる私。殺意が湧く。

 

空気清浄機にたまった湿気(水)を捨てるには、布団から出なければならない。それができるのなら、そもそも今こんなところで丸まっていない。つまり、タンクにたまった水は捨てられない=部屋は暖まらない。万事休す。

 

途方に暮れる視線の先に、救世主なるアイテムが。ドライヤーだ。我が家のドライヤーはなぜか業務用のため、風量は十分で温度も熱すぎず暖房器具として最適。

ドライヤーへ手を伸ばすもさすがに届かない。どうしても一歩、足を出さなければならない。だがここで考える余裕などない。我が家で私を暖める方法は、あのドライヤーをここへ連れてくる以外に無いからだ。

(私よ、行くしかない)

手触りの良いお気に入りの毛布で頭からすっぽり身を包み、想像するに銀河鉄道999の主人公・星野鉄郎がボロいマントを羽織っているような格好で、私はベッドから飛び出した。そして一直線にお目当てのドライヤーを掴むと、振り返らずに背中から素早く定位置へと戻った。

(やった!)

 

最強の暖房器具を手元に確保。でかした、私。

 

早速スイッチをオン、ダイレクトに温風を浴びる。もうこれは筆舌に尽くしがたいというか。暖かい。幸せだ。私は生きている。

しかしこれではいつまでたっても着替えができない。昨日に限ってなぜ出かける格好で布団に入らなかったのか。

じつは昨夜、滅多に入らない風呂に入った

もちろん出かける格好で寝ようと思ったが、寝汗による異臭を恐れた。冬場の寝具は毛布に羽布団の重装備。よって、起きた時には汗びっしょりとなり、そのまま人と会うのはエチケット違反にあたるため、着替えが必要と判断したのだ。

 

ところがーー。

思わず笑いがこみ上げてくる。なぜか?それは布団から出ずして、手が届く場所に着替えがセットされているからだ。これまたでかした、私。

着替え一式を布団へ引きずり込み、これらへもドライヤーの温風を当てる。うずくまった懐で着替えを抱え込み、暖かい風に包まれる私はカンガルーの気分。だが、そんな平和な時間も長くはつづかない。時刻は8時40分を迎えようとしていることに気付いてはいたが無視していたことを、現実的にそろそろ受け入れようと覚悟を決める。

 

人との約束は果たさねばならぬーー。

正義感の塊、今の地位は信用で成り立っている、と自負する私はむくりと起き上がる。もちろん、布団はかぶったままだ。

そして太ももの間にドライヤーを挟み腹部へ温風を送り込むと、パジャマ代わりのフーディーから両手を抜く。着替えのラッシュガードへ素早く袖を通してからの、一気に首を突っ込み上半身の着替えを完成させた。

続いて体育座りになり足の裏でドライヤーを挟むと、ジャンプと同時に尻を浮かせてスウェットパンツを膝まで下ろす。ここまでくれば後は根性だ。脱ぎ捨てたスウェットと引き換えにたぐっておいたロングスパッツへ足を通し、一気に尻まで引き上げる。

(できた…)

時刻は8時44分。もはや言い訳の余地すらない。ダッシュで家を出てタイミングよくタクシーに飛び乗らなければ、9時の約束には間に合わない。

 

 

これほどのズボラ人間、自分以外に見たことがないのは気のせいだろうか。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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