LINEが人気である理由の一つに、スタンプの存在が挙げられる。
今どきどんな通信手段を使おうが、インターネットの世界に情報を流した時点で、それは世界中にだだ漏れである。それらを危惧してか、SNSを使って重要な情報を発信する人間は若干なりとも減ったのかもしれない。
とはいえ、われわれ凡人レベルが抱える情報など、たかが知れている。銀行口座情報?人間関係?政治的あるいは宗教的思想?・・・そんなもの、やろうと思えばいくらだって引っ張れる。この世で重要とされる情報など、実際のところはさほど重要ではないのだから。
というわけで、諸々の使い勝手のいいLINEをメインの通信手段としているわたしは、LINEスタンプも頻繁に活用している。
*
「こういうウザいスタンプ、見たことある?」
友人から送られてきたスクショには、それはそれは腹の立つ煽り言葉のスタンプが連打されていた。
(これはたしかにウザい・・・)
とはいえ、親密な関係性だからこそウザいスタンプを送ることができるのだ。本当に嫌いな相手、あるいは苦手な相手に対して、イラつくスタンプを送ることなどできない。仲がいいからこそ、ウザさを笑いに変えることができるからだ。
そこでわたしは考えた。
——ウザいスタンプ爆弾を投下する相手には、同じくらいウザいスタンプを送り返してやればいいのではないか?とはいえ、友人がわざわざ課金してまでウザいスタンプを購入するとは思えない。ならばここはわたしが、まさかのウザスタを贈ってやろう。
早速、似たような腹の立つ煽りを吟味し始めたわたし。その中からさらに厳選した一つの作品を、友人へと送ることにした。
(50コイン・・・120円か)
こんなくだらないスタンプを購入するのに、120円も使うのはどうかと思うが、それでも友人のパートナーに対する挑戦状と考えれば安いものだ。よし、クリックしよう——。
「し、しまったぁー!!!」
深夜に一人、わたしは思わず叫んだ。よりによってなぜ、こんなしょうもない、いや、使い勝手の悪いスタンプを・・・。
そう、友人にプレゼントするつもりが、普通にわたし自身が購入したことになってしまったのだ。実際のところ、ものすごく要らないスタンプである。どう転んでもわたしには使うことのできない、正確には、このスタンプを使う相手がいないジャンルなのだから。
おおよその見当はついたと思うが、わたしは「嫁から旦那への煽りスタンプ」というやつを購入したのだ。
「可愛い嫁を許して♥」
「指輪はずすぞ!」
「小遣い減らすぞ!」
「それでも私の旦那か?」
こんな無意味なセリフ、いったい誰に使えばいいというのか。たとえ冗談でも、スタンプを送られた相手にとっては笑うに笑えない、恐怖の既読スルーをするしかないだろう。
(いや待てよ。笑いのわかる、気心の知れたアイツなら・・・)
奇妙なことに、わたしの元カレによく似たイシダという友人がいる。これまでも散々、元カレというテイでいじり倒してきたわけで、イシダにならばこのスタンプも活きるかもしれない。さらに奴とのやり取りならば、微妙な空気が流れることもないはずだ——。
そこでわたしは、とりあえず適当なスタンプをイシダに送りつけてみた。
「旦那、反抗期か?」
「嫁のために頑張れ♥」
さぁどうだ、喜ぶのか恥ずかしがるのか、はたまた・・・。
*
案の定、わたしは既読スルーされた。
(あぁ、マジで120円を返してくれ・・・)
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