——これは何かの「罠」なのかもしれない。なぜなら、こんなにも偶然が重なることなどあり得ないからだ。一回や二回ならばまだしも、何十回とこのような偶然が続くというのは、むしろ陰謀論的な何かでなければ合点がいかない。
いったい何が「罠」で「陰謀論」なのかというと、東急目黒線の不動前駅から帰宅しようとすると、毎回必ず、次にくる電車が「通過」なのだ。
「・・え、そんなこと?」と思った者もいるだろう。そりゃそうだ、かなりどうでもいい偶然なわけで、これのどこが「罠」だというのか。
だが、自分のことだと思って考えてみてほしい。朝でも夜でも平日でも土日でも、どんな時間帯であっても発車標の先発が、例外なく「通過」と表示されていたら、それを冷静かつ肯定的に受け入れられるだろうか。
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不動前駅は、目黒駅と武蔵小山駅の間にある小さな駅ゆえに、急行列車は猛スピードで通過していく。そのため、発車標には各駅停車のみ時刻が表示されるが、各駅停車の合間に急行が通り過ぎる場合は、「通過」の文字が示されることとなる。
目黒線は、東京メトロ南北線と都営三田線との直通運転を行っており、目黒方面への上り電車は白金高輪駅にて二方向に分かれる。よって、発車標にも南北線と三田線の二路線の運行情報が表示されるのだ。
具体的には、先発と後発の二本分の発車時刻が出る。そして繰り返すになるが、不動前駅は急行が止まらないため、「通過」という文字が表示される時もある。それは当然のことだし、これといって疑問を抱く余地はない。そうなのだが、なぜかわたしが改札に到着すると、百発百中で次の電車が「通過」なのだ。
最初のうちは「運が悪いな・・」程度にしか思っていなかったが、ここ数年、不動前にあるピアノスタジオを利用するたびに、ただでさえ練習で疲弊しているわたしに向かって、さらなる追い打ちをかけるかのように、発車標は無慈悲にも「通過」の二文字を映し出すのだから腹が立つ。
いや、今となってはもはや不思議で仕方がないのである。
仮に、二本に一本の割合で急行の通過があるとしよう。それでも、毎回「通過」を引き当てるのは、並大抵の運では無理だろう。そして実際には、三本に一本程度の割合で「通過」が表示されるわけで、10回連続で「通過」に当たる確率を計算すると、(1/3)^10≒0.00169%・・・え、マジで?
こんな神がかり的な確率を当て続ける・・いや、結果的には外し続けているわけだが、これほど残念な奇跡が起こるはずもない(と願いたい)。
そこでわたしは、なぜこうなるのかを考えてみた。まずは、スタジオを借りる時間は一時間単位なので、終わりは毎回「○〇時59分」または「〇〇時29分」となる。そして、スタジオから駅の改札までは目と鼻の先なので、不動前駅を毎時5分過ぎ、あるいは35分過ぎに急行が通過するとしたら、駅まで直行すれば毎回この現象にぶち当たることとなる。
この推測はかなり信憑性が高いし、実際にそういうことなのだろう。しかし、あまりに毎回「通過」の表示を突きつけられるため、改札手前にあるドトールで一服してから改札を通る・・という習慣ができたのも事実。そうなると、一服の時間までもがある種の規則性を帯びているというのか——。
(いや、それは考えにくい・・)
なぜなら、わたしは毎回ランダムにドリンクを選ぶ上に、飲む杯数もバラバラ。少なくとも3杯は注文するが、ホットとアイスやブラックと甘い系の割合は毎回異なるため、カフェの滞在時間も一定ではない。
まぁ、ブラックコーヒーを必ず一杯は飲む・・というルーティンはあるが、その他はシーズナルドリンクや店員のオススメ、あるいはその日の気分次第で流動的に選ぶため、注文内容が同じになることは色んな意味であり得ないのだ。
(だとすると、なぜ天文学的な確率で当たり・・いや、外れ続けているんだ)
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どれだけ考えても得心の行く答えは見つからないわけで、だからこそ何かの「罠」か「陰謀論」で片付けられたら、わたしとしても気が楽なのである。
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