澄みきった青い空、勢いのある眩しい太陽――。なんと爽やかで気持ちのいい朝だろう。
しかしここ最近、朝が訪れる時間がかなり早まっているのが気になる。外壁がコンクリートとガラスの我が家には、2メートル超の大型ブラインドしかついていないため、ダイレクトに朝が押し寄せてくるのだ。
朝の4時、いや、3時後半といえばもはや朝だ。夜の闇から朝へと繋がる薄明るいブルーの光が、静かに港区を包み込む。するとどこからともなく、待ってましたとばかりに鳥たちがチュンチュンカーカーと自己主張を始めるわけだ。
こうなればもはや寝ることなどできない。自然界の騒音と明るさがみるみる迫ってくる中で、目を閉じても耳を塞いでも、ポジティブなソワソワが止まらないのである。
(クソッ、遮光カーテンがあればよかったのに・・・)
すべてはここに問題があるのだ。遮光カーテンで覆われてさえいれば、鳥の鳴き声はまだどうにかなる。だが目を閉じてもまぶたから浸透してくる、エネルギーに満ちた朝の光というのは、夜を中心に暗躍するわたしにとって「恐るべき聖なる光」なのである。
ちなみに、飛行機に搭乗した際にもらったアイマスクの存在を思い出し、スーツケースから引っ張り出したことがある。しかしあれは、残念ながら眼球が突出しているわたしには問題があった。欧米人のようにおでこと鼻が隆起していればまだいいが、平たい顔族であるわたしは、おでことまぶたと頬の高さが同じであるため、命よりも大切な眼球にマスクの圧力がかかり続けるのだ。
そのせいか、アイマスクを着用するためび悪夢にうなされるようになった。このままでは、網膜だけでなくメンタルにも悪影響が出そうだ――。
そこでわたしはAmazonでアイマスクを探した。すると、900件近い評価人数にもかかわらず、4.8という超高評価のアイマスクを発見したのだ。しかも値段は1,200円ということでお手頃である。
(似たようなマスクは他にもあるが、とりあえず評価人数の多さを信頼して、これにしよう)
なんせ、人間工学に基づいた立体構造で、鼻周りや目元にぴったりフィットするらしい。そして、なによりも重要な要素である「眼球への圧迫感がない」という文字は、わたしの心をグッと掴んた。さらにアップグレード技術(?)とやらで、超音波機器(?)による、縫い目のない柔らかな着け心地が実現できたとのこと。
少し気になるのは「材質:シルク」とあるが、商品説明には「シルクのような素材を採用しており」と記載されており、つまりこれは「シルクではない」ということになるのだが、まぁその辺りは見逃すとして・・・。
とにかく、いつでもどこでも快眠できると断言している、この中国製のアイマスクを、わたしは速攻でクリックしたのである。
*
(・・これか)
注文した翌日、いや、翌朝にアイマスクが届いた。
ちなみに今、商品説明に書かれてあったことが事実かどうか、試すにはもってこいの条件がそろっている。なんというバッド、いや、グッドタイミングだろうか。
こうしてわたしは、かなり高くまで昇った太陽に目を細めながら、この高評価アイマスクを装着してみた。たしかに目の周りが立体的に凹んでいるため、わたしの極度に突出した眼球にも触れることなく、穏やかな暗闇が眼前に広がる。
瞬きをするとまつ毛が当たるが、眠るのにまばたきは関係ないため問題はない。鼻が低いからか頬の筋肉が隆起しているせいかは分からないが、アイマスクの下方から薄っすらと光が入り込んでくる。とはいえ、98%くらいは暗闇を手に入れることができたわけで、圧倒的な安心感がわたしを夢の世界へと誘うのだ。
そう。この先の展開はもうすでに想像がつくだろう。朝の8時半に太陽の光から遮断されたわたしは、なんとも心地よい眠りについた。
――都会の夜は明るい。田舎のあの寂しい暗闇を求めたところで、必ずや光に邪魔をされる。夜空を見上げたとて、星すら見つけられない人工的な白夜が続く街、東京。
ところが今、わたしは真っ暗で不思議な空間を漂っている。温かいようなひんやりしているような、それでいて守られているような。この暗闇に向かって突き進んでいきたい衝動に駆られながら、わたしはどんどん虚無へと吸い込まれていった。
*
遠くでスマホのアラームが鳴り響くのが聞こえる。あ、打ち合わせの時間か。・・というか、夕方じゃないか。
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