デジタルピストルがビームピストルとやらに変わっていた件

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そもそも、わたしがピストル射撃をスタートしたのは今から15年ほど前のこと。エアライフルと違って、いきなり所持できるものではないのがエアピストル。そのため、前段階として「デジタルピストル」という競技の門を叩いたのである。

ちなみに、今も昔も「ビームライフル」という競技が存在する。これは、電子標的に向かって引き金を引くことで、キセノンランプ(レーザー光線)が発射され、手元のディスプレイに点数が表示される仕組みの射撃だ。

これに比べてデジタルピストルは、電子標的に向かって引き金を引くところまでは同じだが、点数は専用ディスプレイではなくパソコン画面に表示されるのだ。しかも、撃発までの銃口の動きが軌跡グラフとして表示されるので、どのような軌跡をたどり着弾したのかが一目瞭然となる。

 

ヨボヨボと天井から糸が垂れてきて、その糸くずが固まっている真ん中で撃発できたとき、それはほぼ間違いなく10点以上を撃っている。「以上」というのは、実際の点数は小数点以下第一位まで表示されるので、ピストル種目の最高点は10.9点となるからだ。

デジタルピストルもエアピストルもそうだが、不思議なことに撃発した瞬間におよその点数が分かる。10m向こうの黒点(標的の中央付近)の一番外側は7点圏だが、そのど真ん中となる10点か9点、あるいは8点(それ以下は取り返しのつかないミスとなる・・)は、残念ながら撃った瞬間に分かる。

だが微妙なところを撃ってしまい、祈るようにモニターへ目をやると、10.0点ではなく9.9点の表示が目に入ったときの「残念な気持ち」は、わずか0.1点の差だが後を引くものだったりする。

 

そして今日、実に10年以上ぶりにデジタルピストルを手にしたわたし。正確には、デジタルピストルではなく「ビームピストル」を撃ったのだが。

正直、どこがどう違うのか分からなかった。銃器の形状的にも、電池が内蔵されているシリンダー部分が、かつては丸かったものが四角くなっている程度で、大きな変化は感じなかった。だがどうやら、デジタルピストルはNEC製で、ビームピストルは興東電子株式会社製・・という違いの模様。

ちなみに、ビームピストルでも軌跡の表示ができるようだが、たまたま本日の射場ではパソコンではなくビームライフル用ディスプレイとターゲットが接続されていたので、点数を知ることはできたが着弾位置の確認はできなかった。

 

(んー、10点のはずだが・・・)

 

所詮、ピストル射撃など10年前の記憶であり、今さら当時の感覚を思い出せるはずもない。だが、なぜか不思議なことに「10点」を撃った自信だけは健在なのだ。

しかしディスプレイに表示された数字は8.1点。おかしいな、どこを撃っているのだろうか。

数発連続で撃ってみるも、点数にかなりのバラつきがある。いくら衰えているとはいえ、そこまで勘が鈍るとは思えない。軌跡と着弾位置さえ分かれば修正できるのに――。

 

そこでわたしは、思い切ってサイトを調整するツマミを20クリック回してみた。当時の記憶では、5クリックも回すと明らかに変化がみられたので、やりすぎ!というくらい回してみれば、どのくらいズレているのかが把握できるだろう。

ところが、わたしの据銃が悪いからか、はたまたビームピストルのクセが分かっていないのか、同じ見出し(サイティング)で撃ったにもかかわらず、点数が動かなかったのだ。

(こうなったら、明らかにズレを生じさせてやる!)

自棄になったわたしはもう20クリック、ツマミを回してやった。これでかなり限界近くまでサイトがズレたはず。さぁどうだ?!

 

(・・・8.3点)

 

見出しを変えずにクリックを最大限に動かしたはずなのに、なぜか点数に変化が見られないのだ。いったいどうなっているんだ!?

標的のどこを撃っているのかが分からないわたしは、あまりのイライラに耐えきれず、逆の手、つまり左手で撃ってみることにした。とはいえ、ピストルのグリップは右手用にできているので、左手で握れば当然うまく握ることはできない。

だが、実際にやることといえば「照星と照門をツライチでキープすること」であり、あとは引き金を引くだけ。つまり、右手か左手かはさほど問題ではないのだ。いや、問題はアリアリだが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。10点を撃ったつもりがなぜ8点なのかを解明するべく、使えるものはなんでも使うしかないからだ。

 

(10.8点・・・・・)

 

右手グリップを左手で握り、左目でサイティングをしながらも、ドンピシャの見出しとトリガリング(引き金の引き方)ができた瞬間に、わたしはまさかの高得点を撃った。まさかではない、これこそが正しい射撃なのだろう。

 

10年前、ピストル射撃でノイローゼになりかけたわたしは、もう二度と撃つものか!と思っていた。その頃の嫌な感覚を内包したままの右手よりも、まるで素人の左手のほうが、素直にストレートに引き金を引くことができたのだ。

(こりゃ、辞めて正解だったな)

わたしは悔し紛れに憎まれ口を叩きつつ、背後で見ていた後輩に射座を譲った。

 

ビームピストルは「お遊びで何度か握ったことがある」らしいが、まぁさほど期待せずに彼女の射撃姿勢を見守るわたし。不慣れながらもそれなりのフォームで銃口をターゲットに向けて下ろしていく。そして静かに人さし指を握り込む――。

 

・・・カチッ

 

たしかに彼女は引き金を引いた。それなのに、ディスプレイに点数が表示されない。装置の故障か?あるいは電池切れか?

いいや、違う。彼女は確実に射撃した。そして見事に0点を撃ったのだ。

 

(・・よし、もう少し撃ってみるか)

 

他人の不幸に便乗するのもどうかと思うが、それでも自ずとやる気に満ちてきたのだから仕方がない。上をみたらキリがないのも当然だが、下にも下がいるということを忘れてはいけないのである。

 

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