フルーティーアップルが毒の香り・・

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(フルーティーアップルって、こんな臭いなのか・・・)

フルーティーアップルという果実が存在するわけではないので、あくまで想像上の香りとなるが、パッケージが緑色だから"グリーンアップル"をメインにした、フレッシュで爽やかな匂いを詰め込んだはずである。

ところが、いま放たれている臭いは完全なる異臭・・いや、悪臭といっても過言ではないが、クサいとか鼻が曲がるというよりは、明らかに毒味を帯びた化学的なニオイなのだ。たしかにフルーティーアップルは人工的に作られた香りだから、多少はケミカル臭もするだろうが、これはその範疇を超えている——そんな、本能的に呼吸を止めるほどの強い殺意を感じたのである。

 

わたしがいったい、なんのニオイにここまで狼狽させられたのかというと、「スクラビングバブル防カビ・除菌+バスクリーナー」である。

洗濯機周りのホコリを掃除していたところ、目では確認できないほどの奥に、なにやら白っぽい物体が落ちていることに気がついた。手を伸ばして指先で引き寄せると、それはホコリまみれのスプレーボトルだった。

(なんか凹んでるぞ・・・)

気圧の変化により凹んだペットボトルのように、スクラビングバブルのボトルは変形していた。わが家は、知らぬ間に気圧の変化が起きたのだろうか——。

容器を振ってみると、まだ半分くらい液体が残っている。このまま捨てるわけにもいかないし、とりあえず使ってみるか。

 

・・というわけで何プッシュかしてみたところ、なんというか明らかに有害でケミカルな異臭が漂ってきたのである。しかも、よくある防カビ剤や酸性洗剤のように「必ず換気をしながら作業を行ってください」という類の、強烈な刺激臭とは異なるニオイなのだ。

具体的には「嗅ぎ続けたら死ぬんじゃないか」と恐怖を感じるほどの、そしてそれはあながち間違ってはいないであろうレベルの"毒の香り"だった。

ではなぜ、フルーティーアップルが毒の香りに変化したのかというと・・そう、あまりに劣化しすぎたからである。

 

ネットで調べてみたところ、「スクラビングバブル防カビ・除菌+バスクリーナー」は2018年に製造終了となっていた。仮にこれを、製造終了年度である6年前に購入したとしても、もうすでに6年が経過している。それ以前に購入したとすれば、ますます劣化している可能性が高くなるわけだ。

これらの風呂用洗剤に使用期限があるのかどうかは分からないが、一般的には3年をめどに廃棄するよう推奨されている模様。となると、6年以上経過したスクラビングバブルは、どう考えても成分が変質しているだろう。その証拠として、あの異臭が放たれたわけで——。

 

(まぁニオイに問題があっても、洗浄力に問題がなければ使ってやってもい・・・ムリムリ!まったくムリだっっ!!!)

ニオイに耐えることができれば、ボトルが空になるまで使ってやってもいいと思ったが、とてもじゃないがそんな余裕は皆無。命の危険を感じたわたしは、安全な空気を求めてリビングへと転がり込んだ——ハァハァ、あれはヤバイ。

あの臭いを何回か吸い込めば、確実に体に異変が起きるだろう。おまけに意識を失う恐れがあるため、誰かを従えた状況でなければ挑戦はできないが・・。とはいえ、実際に何度も吸い込んだとして、その後どうなるのだろうか。意識を消失したとして、わたしは再び目を開くことができるのだろうか——。

 

ニンゲンとは愚かな生き物だ。最初に毒キノコを食べた者は命を落としたわけで、にもかかわらずなぜキノコにこだわったのかは不明だが、現代においても椎茸やエノキ、なめこ、しめじなど多くのキノコを食しているのだから、幾多の命を犠牲にしてまでグルメを追求したことになる。

そんなことからも「なんてバカな生き物なんだ」と思わなくもないが、今となってはその気持ちが理解できてしまう。ダメだと分かっていても、その先に何があるのか知りたくて我慢できないのが、愚かさの象徴たるニンゲンなのだから。

 

 

などと崇高な理念を語りながらも、あまりの悪臭にひるんだわたしは、スクラビングバブルの残液をすべて捨てると水道を全開にして流した。そしてファブリーズを握りしめると、洗面台に向かって何度も何度も打ち込んだ。

(ケミカルにはケミカルだ!)

とどのつまりは、6年が経過した風呂用洗剤はすぐさま廃棄するべき・・ということを学んだのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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